公園のカルガモが子供を産んだ。
そう教えてもらって池を見に行くとちっこい雛が大きなののうしろにピタッとくっついて泳いでいた。話では12羽いると聞いたのに、目を凝らして隅から隅まで見ても4羽しかいない。
きっと大勢の人が見物に来るのでかくれてしまったのだろうとその日はその場を去った。
ラジオ体操に同じ頃から参加しはじめた男性がいる。年齢も同じくらいなので勝手に同級生のように思っていた。
その人がかわいらしい小柄な女性を連れてやってくるようになった。
奥様か、兄妹か、ルームメイトかわからないが、毎日一緒に散歩をしている。
あるとき、男性はいなくて彼女一人が体操の広場に立っていた。
目が合った。ぺこりと頭を下げ合い、お互いなんとなく気になっていたのか、どちらともなく近寄っておしゃべりをした。
短い会話で、いつからいらしてるんですかと聞かれ、お連れの男性と同じ頃からですと答える。男性は夫で彼の転勤でこの土地にやってきたそうだ。彼女も大病をして、体力をつけないとと思って歩き始めたのだと教えてくれた。
私より背が小さく、ショートカットで色白の彼女は話す時、両手を顔の前で組んで、やわらかい笑顔で人懐っこくこちらを見る。お嬢さんのようなかわいらしさで、私がもし男性だったらこんな女の子を好きになるのかもなあと思うような愛らしい女性だ。
そうだ。彼女に教えてあげよう。
広場の池の鴨が赤ちゃん産んだんですって。
えぇ?うわあ、見に行ってみます。ありがとうございます。
その翌日、彼女がトテトテっと小走りでやってきた。
みましたぁ。赤ちゃん。いっぱいいました。7羽。7羽いました。癒されますぅ。かわいくってもう、たまらない。
それから毎日、私を見つけるとやってきて今日は何羽みつけた、今日はあまりいなかったと話してくれる。
今朝、雛がどこをどう探しても1羽しかいない。
どうしたのだろう。
そのまま体操に行こうと歩いていると向こうから彼女がご主人と歩いてきた。
小走りで寄ってきて雛が1羽しかいないと不安そうに言う。
どうしたんでしょう。なにがあったのかしら。嫌な想像しちゃって。カラスとか。
そう、どうしたんですかねぇ。
そういって互いに反対方向に歩いて別れた。
私に鴨の赤ちゃん誕生を教えてくれた女性にどういうことだろうと尋ねると小声で
共食いよ、縄張りとか。と言う。
私は呑気に区の職員が捕獲してどこかに移動させたのかと考えていたので衝撃だった。
まさか。
家に帰って調べると鴨にはそういう習性があるらしい。子供の数が多い場合、餌が足りず生き延びさせ切れない場合、そうすることがあるという。
あの愛らしかったピヨピヨが・・・。
知らなきゃよかった。
明日、彼女はまた私にどうしたんでしょうねえと、心配そうに言うだろう。
彼女に考えられる事実を話すことを思うと、きゅっとなる。
あの可愛らしい笑顔が悲しげに変わる。そんな顔を見たくない。
泣かないといいなあ。