餃子20個

餃子を作った。大判サイズの皮で包んだのが20個できた。

母のところに持って行ってやろうか。今日は夜から体操教室だから夕飯の支度に便利だろう。

いや、昨日彼女は友達とアウトレットに出かけたからその帰り、晩御飯用に便利なおかずを買って用意しているかもしれない。

「餃子作ってんの?」

そうだよ。

「それ、今晩?」

そうだよ。

「イェーイ」

息子が覗いて喜んだ。そんなに評判がいいならやはり全部うちのにしようか。

予定では7個づつ、残りは野菜たっぷりのスープに入れてワンタンみたいにしようと思っていた。冷蔵庫に麻婆豆腐が残っているから、あとはそれ。と、トマトかな。

母にもっていってやろうか。

持って行って大喜びするときと、ちょっと面倒くさそうにするときとある。

頭の中で今日はこれと決めているものがあるときは、邪魔になる。

「あなたのところで食べなさいよ」

「冷凍できるよ」

じゃあもらっとくわと受け取ることもあるが、なんだか押し売りのようだ。

自己満足を押し付けちゃいかんと、持ち帰ることもある。

それはそれでなんだか間抜けでちょびっと切ない。

余った豚ひき肉とピーマンと玉ねぎを甘辛く炒めて片栗粉でまとめた。

すこしだけオイスターソースを足す。

もし、母に持って行くとしたら餃子の数が減るからもう一品、保険だ。

麻婆豆腐、餃子、これ、でもいいっか。

午前中が終わっちゃう。向こうも夕方前に支度するだろうから差し入れるなら早いほうがいい。

作り終わってからもう二時間。二世帯の扉隔てたこっちであれこれ思案する。

 

 

で、持って行った。

喜んだ。

今日は体操教室の前に歯医者だそうだ。

「たすかった」

うれしい。

 

 

おうち時間

新しい鍵はすこぶる快適で力を込めなくてもスッスッと回る。

経年劣化で、鍵穴が歪み目一杯力を込めても半分しか回らず鍵がかからない。早めに支度したはずなのにここでひっかかり何度も遅刻しそうになる。

それが我が家の鍵事情となってもう数年。そのまま放置していたのは単にケチだったからだ。

頑張れば使えるのに4万をこえる出費は納得がいかない。それに私は専業主婦なので丸一日家を空けることはほぼない。当時息子は自称、友達のいない学生だったから、授業のない日は彼もほとんど在宅していた。

そうこうしているうちに、息子は社会人になる。二人が出社したら映画行って、美術館行って。と夢見ていたのもコロナに足止めをくらう。テレワークがはじまり、夫も息子も毎日朝から晩まで、家にいる。

つねに番人が複数いるので、私が鍵を使う頻度はますます減った。

あの日も本当は持って出る必要などなかったのだ。ひさしぶりに電車に乗ってのお出かけなものだから、ちょっと張り切った。

張り切って、鍵を持って出てみたのだった。

「新しい鍵くれよ」

息子に言われ、それぞれに手渡す。

「この度はどうもお騒がせいたしまして。差し替えお願いいたします」

しかし未だ3人とも、これを実際使う場面に出くわしていない。

ほぼ家にいる3人。

誰かが出かけても必ず誰かが居る。

私に至っては新しいキーホルダーをまだ買っていないので、剥き出しのまま箱に入れてしまっている。

4万円もしたのに。

コロナが落ち着いてもテレワーク体制は定着するらしい。

ふらふら出かけてドトールで読書をしていたあの日々は、もう戻ってこない。

今日は朝から雨。

夫は出勤したが青年は在宅勤務。

オムレツの具を作った。大根とさつま揚げと昆布を煮た。

窓が湯気で曇る。

雨の日のまったり過ごす家時間も悪くない。

反省しろっ。

友人と別れて家に帰りつき、カバンから持ち物を出して気がついた。

鍵が、ない。

いやいやいや。ちゃんとよく見ればきっとある。長い赤い皮の紐のキーホルダーを鞄にくっつけているのだ、なくなるはずがない。

しかしないのだ。

玄関先で焦り始める。家族がいたので出発するときも帰宅した今も使う必要はなかった。いつから無いのだ。

中身を全部引っ張り出して逆さまにしても内ポケットを見ても、どこにもない。コートのポケット、スカートのポケット、ない。

「鍵がない」

無くしたと言わず、あえて無いと言う。それくらい、自分の不注意と思えないのだ。

夫も一緒に探してくれたが消えた鍵は出てこない。

あそこか。あそこか。今日たどった道をさかのぼり、駅、スーパー、沿線の事務所、おしゃべりしたスタバ、思い当たるところすべてに電話したが届いていなかった。

「大難を小難でさけたんだよ」

「新しいの作ろう、大丈夫」

二人とも怒らない。優しい。それが余計気持ちを萎ませる。

住宅メーカーの夜間緊急対策ルームに事情を話し、鍵の交換の手配を依頼した。

「本日業務は終了しておりますので明朝、10時ごろまでにご連絡申し上げます」

そこまで完了して幾分ほっとする。

夕飯に肉豆腐を作ってでたが、遅くなったので握り寿司を男性陣のぶんだけ買って帰っていた。

偶然とは言え、お寿司買っておいてよかったぁ。

「オッお寿司、ひさしぶりだな」

「ラッキー」

罪人は居場所を確保する。

 

 

今朝、目が覚めた瞬時に思い出す。

それとまた同時に夫が私に言う。

「トンさん、鍵なくしたこと、いいんだからね、大丈夫だから」

「トンさん、いいんだからね、新しくすればいいんだからね、トンさん悪く無い」

やらかしておいてなんだが、やや得意げに上からのポジションで何度も言われると素直に反省できない。

「いいんだから、ほんと、気にしなくて、誰でもやることだから」

くっそう。

「ありがとう・・」

「いいのいいの、トンさん悪く無いよ、買ってあげる、新しいの」

朝の支度をしようと冷蔵庫をあけるとワインの瓶が無い。夫が夜中一人で飲んだのだ。

怒る立場にない。

あいつ、やりやがったな、くっそう。

罪人、タチが悪い。

鍵会社から電話が入り、お困りでしょうから今日これから伺いましょうかというのでお願いした。

無くしたのは上だけだが上と下で二重ロックに二つの鍵を使っている。セットで一式取り替えることにしたので概算で4万はかかると言われた。

それにも凹む。

「ごめん」

ところが業者さんがやってきて我が家の玄関ドアの鍵を見るなりこう言った。

「この鍵、20前にピッキングに甘いことで問題になったタイプのですよ。新聞でもニュースでも騒がれて。いっとき大騒ぎになって四ヶ月待ちで取り替えたりして」

20年前といえば、この家に入居してまだ数年、新築に近いからうちは大丈夫と受け流したのだろうか。それとも二世帯で必ずだれか家にいるから平気だわと問題視しなかったのか。

「よくこれまでご無事で。なにごともなくよかったですね」

それを聞いて萎んでたのが少し元気づく。

「もともと危なかっただんだって。防犯性がかなり弱いもので問題になってたんだって」

夫に鼻息荒く報告に行く。

「ね、危ない鍵だったんですよね」

もう一度彼の前で同じことを言ってもらう。

じわじわ威張り出す妻。しおらしかったのもわずか一晩だった。

住宅メーカーで扱っている中で一番安全だという鍵に変わった。

「よかったねぇ。あぶなかったねえぇぇぇぇ」

夫も息子も一度も責めなかった。

そこを忘れてはいけません。