補助輪

母が怪我をした。

顔の、口周りのところを打ったのだ。

ゴミ出しの帰りに家の前で転んだ。危ないっと思い咄嗟に手をついた。膝もそう強く打たずセーフ・・と思ったその瞬間、腕が体重を支えきれずに曲がり、顔面を打ったのだ。

鼻の下に鼻血のように擦り傷の血が縦に滲んでいる。唇は抜歯をしたときのように膨れ上がっていた。

大丈夫大丈夫というが、痛々しい。幸い、骨も歯も無事だった。さすが、週2回の体操教室、週1回の吹き矢で鍛えているだけはある。これが自分だったらと思うとこうはいかなかったろう。

少し横になると寝室に行ったが1時間ほどするとお腹が空いたと降りてきた。

ヨーグルトが食べたい。

パンは?

クロワッサンがいい。

素直に頼んでくるところをみると、これは相当のダメージなのだ。転んだことのショックもあるのか、しおらしい。

歯医者の帰り、パン屋でクロワッサンを4つ、クラムチャウダーとコーンスープ、カップの甘いヨーグルトを4つ買う。

それから水羊羹とキャラメルコーンじゃがりこ

こんなにいらないと嫌がるだろうかと思ったら「すみませんねえ」と受け取った。

一夜開けて様子を見に行くと腫れはだいぶ引いていた。唇に当たるときが痛いが、奥歯の位置にまで持っていけばなんでも食べられると昨日より幾分元気が出てきた。それでもまだ、大口は開けられなさそうである。

ラジオ体操の帰り、24時間営業のスーパに寄り、鶏ひき肉とはんぺんを買っておいた。

それと豆腐とまぜ、ふわふわ柔らかいシュウマイにした。

持っていくたび、迷惑がりはしないか、こんなのいらないと言わないかと様子を伺う。

出過ぎてもいけない。ついでに作ったのだと、恩着せがましくならないように。

ほうったらかしも寂しいが、うるさくかまわれたり世話を焼かれるのもうっとうしい。

遠くから、気にかけていると伝わる程度がいい。

あくまでもサブ。自転車の補助輪のように。倒れないように支えるくらいがちょうどいい。

こんなことはこれからもまた、あるのだろう。

今に感謝する。そうでいられる間はサブでありたい。