前夜 息子の誕生日 その1

今日は息子の誕生日。23歳になる。

二十三年前の今頃、私は陣痛室にいた。

その日はどう言うわけか産気づいた妊婦が次から次へとやってきた。

後でみんなと話して知ったのだが、ほぼ全員が前日の午前中、検診を受けていた。

「ちょっとお腹、触っておきますね。もしかしたら今晩あたりくるかもって言われた」

「私も〜」

「私も言われた、なんか、チョンチョンってしてた」

もしかしたら先生の都合にあわせ、産まれやすくツンツンされたんじゃないのと無責任な話で盛り上がった。

私もそうだった。

今晩あたり産気づくかもと言われ、一人で動き回れるのもこれまでと伊勢丹に寄り道をし、寿司を食べ、ベビー用品を冷やかし、地下食料品売り場で朝食用に山のように甘ったるいパンを買ったのを覚えている。

その晩、何年かぶりの横浜ベイスターズの日本一がかかった試合があった。

夫の帰りは遅く一人でいるところに母が来た。

「あなた、妊婦は縁起がいいからちょっと観に来なさい」

呼ばれ、実家でキャーキャー言いながら観戦するのに加わった。

無事、母と姉の応援するベイスターズが優勝し二人は宴を開き、私は帰った。

その時だった。

痛い。・・これは・・あれだ。いつもと違う。強い痛みと胎動。来たんだ。

今っ?これから?時刻は9じ過ぎ。ちょっと今は勘弁してもらいたい。

「ねぇ、出てきたいんでしょ、母さん今日、デパート行ったりしてさんざん遊んで疲れちゃったんだよ。明日、明日にしよう。これからお互いぐっすり寝て、明日、短時間で決めよう」

話が通じたのか、お腹はぴたりと治った。

まったくよう。じゃあ明日な。明日はきっとだぞ。

そう言われているようだった。

(続く)