台所の整理をした。
狭いのに手に届くところ、目に入るところに道具を置きたい。そうすると気楽に気負わず料理に入れる。ふらふら歩いてきて、そこにある鍋やフライパンをコンロに乗せ、まな板を置き、ふらふら冷蔵庫を開けて卵や野菜を取り出す。
それだけで半分とまではいかないが、スタートラインに立った気分になる。
見せる収納といえば聞こえはいいが、私の場合はぶら下げられるものはぶら下げ、引っ掛けられるものは引っ掛ける。ピーラーも、お玉も、トングも、計量カップも、大さじ小さじも、フライパンも、ガスコンロの周りにずらずら並んでいる。たっぷりスペースのある場所でならこの雑多感も「無造作に収納された生活感のあるキッチン」と表現することもできるのかもしれないが、ちまちまあれこれぶら下げた私の台所は、どう見てもごちゃごちゃした机の引き出しの中にいるような場所になってきた。
ふと、思いついて、洗い上がった食器をいれるカゴを右から左にうつした。
蛇口の左側に突っ張り棒で台をつくり、流しのうえに置き場を設けた。
右利きなのでカゴは右。そう思い込んでいたが、作業場がなくなってしまっていた。まな板を水切りカゴの前にわずかに残っているスペースの端っこにおいて、グラグラ不安定なのをぐっと力を入れて固定させつつ、使うので不便だった。
どうして思いつかなかったんだろう。やってみようとすら思わなかった。
突っ張り棒での台は結構しっかり強度があり、カゴはすっきり収まった。
右側に幅40センチ、奥行き50センチのステンレスの作業場が広がった。
これで、まな板を置いて、そのそばに切った野菜をいれるザルもおける。計量カップもおいておける。
嬉しくて、使ってみたくて、肉じゃがを作り始める。
皮をむいた芋を切る。ぐらぐらする。
あ、そうだ。まな板、ここじゃなくていいんだ。
どうしても気がつくといつもの端っこにおいてしまう。
たっぷり真ん中に置いても場所は残っているのについ。
サーカースの象のようだ。鎖をはずしてやっても、小さな範囲から出て行こうとしないという。
ああじゃない、こうじゃないと一生懸命改造してせっかく広々したのにどうしても隅っこに寄っていく。
洗面所から戻って台所に向かう時、いつもの場所がちょっと違って見える。
広くなった。
それだけで気持ちが弾む。今日は料理が楽しくて、やたら台所に行く。