昨日、帰ると遅く起きてきた息子が朝昼兼用の食事を終えたところだった。
家に誰かいると、気持ちの切り替えがすぐできてありがたい。
やっぱり少し落ち込んでいたのか、庭から窓越しに影が見えると嬉しかった。
「おかえりぃ、ヤバイぜ、コロナウィルス」
「ただいま、ああ。大丈夫だよ」
「なんの根拠があってそういうんだよ」
「空気感染しないなら、インフルエンザ対策と一緒。手洗いうがいをしてたら大丈夫だよ。・・・それと規則正しく早寝早起き三食バランスよく食べる生活してれば」
るるる〜と都合の悪くなった息子は席を立ち、窓から庭を覗く。
「庭、よし!異常、なし!」
あ、ちょうどよかった。
「あ、そこに椅子出して、マット干してあるでしょ?乾いているかどうか、ちょっと触ってみてよ」
高校の頃、何か頼むとムッとして眉間にシワを寄せながらさも嫌そうに
「俺が?」
と返された。マットの渇きチェックなんてとんでもない、シャッターを下ろすのでさえ拒否された。
家の手伝いくらいしんさいよと、そこでやらせればもっと家事を抵抗なくする男に育ったと反省もしているが、当時は家の中に暗雲とした息苦しさが立ち込めるのが嫌で
「無理にとは言わないけど」
とそれ以上は黙った。
その日の苛立ちの強弱によって、渋々やってくれたり、黙ってドアをバンッとしめ、荒々しく二階にいくか。基本、後者だったので、自分の体調の悪い時こそやってもらいたいが、受けるダメージを思うと頼まなかった。
目の前にいる21歳はもう、するりとそこを抜けた青年になっている。
「しょうがねえな」
庭におり、マットを触る。
「ほぼ乾いているような・・」
「ホント?じゃあもう取り込んだ方が良さそう?」
すると奴めすかさず
「いや、どうかな。まだかな」
家に上がってきた。
「・・・まさか、取り込んどいてくれと頼まれそうなので、まだだと言っているんじゃああるまいね」
「るるる〜」
「まあいいわ。今何時?3時でしょ、あと1時間したらもう一回見てもらうから」
「なんでわかるんだよ、俺様がめんどくさがってるって」
「だって俺様の脳味噌も細胞の全ても私の中で製造されたんだから、大体のことは見えるのだ」
なんだよそれと、笑う。
「だから、私がお前の人生は幸せになるように出来ているって言ってるでしょ?そうなるよう作ってあるから大丈夫」
近頃就職活動に不安を感じ悶々とすることのある彼にそう言った。
なんだよ、それ。
また笑った。
私も笑う。
9割ドトールで消化した残り1割が吹っ飛んだ。