雨天順延日帰り温泉

昨日、旅に出たはずの私だが、帰宅すると母のが待っていた。

姉の仕事の心配事を話す。

あ、雨天じゅんえーん。

何事もしがみついてはいけない。

雨天順延、しかし、雨天中止にあらず。

頭の裏でそう呟きながら、聞く。

同じところをデフォルメしながらグルグル何度も言うが、要するに姉がやろうとしている案件を、やめた方がいいのにと言うことのようだ。

「あの子、人がいいから、厄介なことが起きたとき、スルリと交わせないでしょ。万が一問題が起きたとき、責任を押しつけられると思うの」

母だなぁ。

どこまでいっても娘のことはハラハラと気になるのだな。

が、どう考えてもそんな事態にまではならなそうな案件だった。

「心配なのね。でもいいこと教えてあげる」

「何」

「お母さんが心配することのうち、9割はいつも妄想」

「あらっ。そうなの?」

気に入ったのか、ケラケラ笑いながら「妄想なのか」と自分でも発音した。

でもこうなんじゃない?そんなこと起きるわけないよ、と穏やかに言い聞かせるより、この方がスパッと解決する。

最近わかった。

母は恐ろしく心配症なのだ。

だから私に対しても「そんなことしていると、いつかこうなる」と呪いのような言葉をかけてくるのだが、それも全て「こうなったらどうしよう」と自分が落ち着かないがゆえに私を突く。

しかし、これも最近気がついたのだが、私は意外と図太い。

そうなったらなったときのことだ。

生きてれば、なんとかなる。

よって母の心配事は大抵、私自身は言われるまで思いもしなかったことが大半なのだ。

今回も自分が想像する展開にソワソワするものだから、こうして言いにきた。

母は姉には遠慮してあまり強く言えない。彼女にピシャリと拒否されるのがいやなのだ。

とにかく私の使命は解決策を見出すことでも、ただただ話を聴き続けることでもない。

不安を消す、のみ。

「大丈夫です、絶対お姉さんは不幸になりません」

事件が起きる起きない論争だと「でも」とくるので、あえて「不幸にならない」と強く言う。

「妄想ですから。それは」

「そう、そうなのかしら」

安心したのか、機嫌よく、いつもより早く話を切り上げ帰ろうとした。

「あ、そうそう」

「なに?」

「あなた、今日、病院だったでしょ、どうだったの?」

おお。母じゃのう。

「ありがと。異常なしでした」

「ならいいけど、なんかげっそりやつれてるから。馬鹿だから自分の体調もよくわかんないで動くから。たのむからお姉さんの老後、一人にしないでよ」

・・・かわいいばあちゃんだぜ・・。

 

一夜あけた今日、外は雨。

朝から肉じゃがを作り、とんかつの衣付けまでする。

トイレを掃除し洗濯物を室内に吊り下げる。

息子はまだ寝ている。

さーてと。

チェックイン。

私の宿泊するホテルはドタキャンでもキャンセル料なし。

予約不要。

ホットカーペットをつけて、Kindleを開く。

日帰り温泉。3時チェックアウト。

ぬくぬくぬくぬく。

あぁ。しゃーわせ。