貴重なワイン

ミートソースを真面目に作ろうと思って、「真面目なミートソース」と検索した。

知りたかったのは、トマト缶を入れた後の調味料。

いつも適当に入れるは塩胡椒、コンソメを適宜、あとはその日の鍋を見ながらケチャップを入れる時もあれば、若干の砂糖だったり、ウスターソースをちょっぴり入れる時もある。

まぐれで美味しくできることもあるが、何をどの分量で入れたかわからない。

「今日のうまいね」

とお褒めいただいても2度と作ることのできない幻のソースとなるのだ。

一度ちゃんとしたものを作ってみよう。うまくいったらこれを我が家の定番といたそう。

行き着いたレシピには塩胡椒の他に、赤ワインとあった。

ワインかぁ。

料理本によく白ワイン赤ワイン、紹興酒とあるが、その為に買ってきた試しがない。

白ワインがなければ日本酒でもいいですよ。

いつか料理番組で先生が言っていたもんね。これを言い訳に無精してきた。

バルサミコ酢もそう。

持っていれば料理の幅が広がるとわかっていても、ついその値段におののき、黒酢でもいっかとこれまた買わない。

しかし、今日の課題はちゃんとしたミートソースなのだ。ちゃんとしよう。

・・・・。

冷蔵庫を開ける。あったあった。夫が大切に飲んでいるワインの飲みかけ。

飲みすぎないよう、1日の摂取量をボトルの三分の一と家族で決めた。

健気にきっちりそれを守り、一定量を飲んではキュッと栓をしてしまいに行く夫が残した、きっちりラスト三分の一が入っている。

彼はこれを今週末飲むことを楽しみにしている。

そうっと蓋を開け、大さじ一杯だけ、いただいた。

肉の臭みも消え、トマトのとんがった酸味もまろやかになり、味に深みがでた。

そうか。これだったか。ケチャップでもない、砂糖でもない、これこれ。これが求めていた味。

たった大さじ一杯はやはり効果絶大なのだった。

その晩、息子はお代わりをした。大成功。

 

これが二日前のこと。

今になってこっそり減らした大さじ1杯が気になって仕方がない。

あんなに大切に一生懸命我慢して三回に分けて飲んでいる中から減らしたことが、気の毒になってきた。

いいや、あれっくらいわかるまい。

確かに気がつかない気もする。しかし、何にも知らず、なんか少ないなあと思いつつも『?』を抱えながら飲んでいる夫の姿が浮かんでくると、切ない。

 

どうしよう、明日は金曜日。

明日、ミニボトルのワインを買ってきて、大さじ一杯だけ戻しておこうか。

味の違いはまあ、気にしない。この場合、味より量だ。

たった一杯。されど一杯。

残りはそれこそ、今後の料理用に使えばいい。

・・・。

だったら初めから料理用に常備しておけば良かったのか?