愛はキャベツにあるんだ

昨日息子がおでんだけじゃ物足りなかろうと、唐揚げを揚げたのだが、遅い昼ごはんをファミレスで3時過ぎに食べて帰って来た。

「じゃ、夕飯7時ね。それまでちょっと寝てくる」

結局このまま起きてこなかった。

声をかけたが「うんわかってる」「わかったってば」「わかってるってば今行くよっつ!」。

このパターンはもう、睡眠の世界に行っちゃって何をやったところでダメなとき。

さっさと夫と二人、食べ始めた。

「唐揚げ、おいしい」

息子に4つ、夫に2つ取り分けておいた小さな皿から真っ先に箸を伸ばす。

夫には、つけていないと拗ねるからお印程度についでに盛り付けておいただけで、本来、食べ盛りの青年の為に揚げたのだ。

二人だけの夕食だったら好物のおでんで十分だった。全部冷凍すればよかった。

妻は密かに悔やむ。

「唐揚げ、まだ、ある?」

息子の皿をキラリと見ながら、夫が狙う。

「もう、やめとき」

何かを察し、引き下がった彼は、素直におでんに箸を伸ばした。

やっぱり息子のために入れておいた粗挽きウィンナーから取り上げ「ウィンナーおいしイィ」と嬉しそうに噛み締める。

君のためにたくさん入れた、キャベツと大根、そっちを食べて欲しい。

そんな思いとは裏腹に、ぽっこりしたお腹で白いご飯を頬張り、これまた息子が好きだからと入れておいた餅巾着を突つく。

「こうなるとわかっていたら入れなかった」

そう思いつつも、今更食べるなとも言えず複雑な思いで見つめる。

その視線を感じたのか

「どれもおいしい、ありがとねトンさん」

全てを自分への愛として受け取り、嬉しそうに夫が笑った。

これを、麗しき誤解という。

今朝、バイトの息子は早朝冷凍パスタを食べて出て行ったようだ。

お盆に避けておいた唐揚げもおでんも手付かずのまま、台所の隅に置いてある。

これでいいや。

夫の朝食にそれはそのままスライドした。

私はツナトーストとバナケーキにトマト。

「あ、唐揚げ。ありがとうぅ。いいのぉ?」

唐揚げは結局全て彼のものになった。

嬉しそうだからいいか。

でも二人ご飯とわかっていたら全部冷凍したのにとしつこく思いつつ、パンをかじる妻なのであった。