新しいイヤフォンを買った。
Bluetoothで長いコードなしで使えるものが欲しかった。
掃除をしながら洗濯をしながらイヤホンで曲やラジオを聞いていると、意識はそこに集中しつつ、淡々と家事をこなすことができる。特にアイロンがけの時はいい。早く終わらせようとか、細かいところがめんどくさいなどと考える隙間が脳には残っていないからか、じっくり丁寧にする作業に飽きることがない。
これまでは前掛けのポケットにiPhoneを入れ、イヤフォンジャックから繋いで耳まで伸ばす仕様だったが、ちょっと動いたりすると、どこかにコードが引っ掛かり、ぽろっと耳から外れてしまう。
大したことじゃないのだが、その度に耳に入れ直すのは結構煩わしいものだった。
「これは買ってもいいんじゃないかしら。いかがかしら?婆や。」
「もちろんですとも姫様。家事の必要アイテムとして認定されるべきものと存じます。」
昨日は午前はテスト勉強、午後はテレビのラグビー観戦の夫の横で、作り置きを何品かと母の鶏ハムを拵えていた。それに加えて、夕方になって夫が「トンさーん、あれ良かったから、これまたお願いできるぅ?」と英単語のCDを6枚、プレイリストの追加をしてくれと持ってきて、パソコン業務。
全部やり終え、鍋で簡単に夕飯を済ませたその晩、私の中の姫と婆やが二人揃って
『買うたる買うたる。よく働くからご褒美ご褒美。』
とけしかける。
自分に甘くいそいそとAmazonからポチッと注文をしたのだった。
Amazonはすごい。それが今日、もう届いた。
早速セットして耳に入れてみた。
しかし、標準でついてきた耳に差し込むゴムが大きいようで、うまくはまらず落っこちる。そんな人のためにと小さめのスペアも入っていたのでそれに変えてもう一度。
まだ大きい。
新しいイヤフォンにするたびにいつもこうだ。どうやら私の耳の穴は平均より小さいらしい。
「脳が小さいと耳の穴まで小さい」
母が笑う。
うるさい。
しかし、あることに気がついた。
耳の穴が普通より小さくても気にならない。
それなのになんで普通サイズより痩せているとか、不器用だとかはコンプレックスになるんだろう。
それは人の目につく、つかないだけの違いであって、知られることをどこかで恐れているからかもしれない。
知られたらどうなるというのだ。
私の体重が誰かに知られて驚かれたとして、私の人生にどういう問題が起きるのだ。
私の虚弱ぶりに誰かが呆れたとして、それは本当に隠さなければならないことなのか。
耳の穴程度のことなんじゃないだろうか。
本人が意識しすぎている、全く気にも止めていないだけの違いであってどちらも、やや標準から外れた私の一部に変わりはない。
今まで使っていたイヤフォンのゴムの部分だけを取り外し、届いたばかりのものに付け替えながらそんなことを考えていた。
「婆や。私の体形や頭や身体の出来は、これしか有りようがないんだもの。これからもずっとこれでいいのかもしれないわ」
「もちろんですとも姫様」