日曜日。あまりの暑さに、いや、いつものことだが、床に転がって動画を観ていた。
向かいの子供がお父さんとベランダで水遊びをしている声がする。
彼らから丸見えにならないように場所を移動した。
ウトウトしているとインターフォンが鳴った。
宅急便が届く宛もないけどなあと立ち上がりモニター画面を見ると知らない男性が立っている。構えた声で
「はい」。
「すみません向かいの〇〇ですが。あ、あの、向かいの家に住んでいる・・」
はいはいはいはいと、急いで庭に出た。門まで行く途中に小さな風船が落ちている。これか。
「あ、これですね。おとしもの」
ベランダから坊やが落としたものがうちの庭に入ってしまったらしい。それを取りにきたのだ。正直言ってこんなものが大事なのかとおもうほど、ゴムはヨレヨレで伸び切ってうすよごれた紫色だ。持ち上げると中に水が入っている。
私も息子もそうだったが、本人にとっては宝物っていうものはある。きっとこれもそうなのだ。
ひょいと持ち上げた。
持っていくとそこにはさきほどインターフォンに写っていた男性の横に小さな、幼稚園か、それより幼い坊やが立っていた。
「はい、どうぞ。大事だもんね」
にっこり渡したがその子は泣きだしそうな不安げな表情のままこちらを見つめている。そしておずおずを手を伸ばし受け取った。
「どうもすみません、ごめいわくおかけして」
お父さんが代わりに挨拶をしてくれたので「いえいえいえいえ」と会釈をして扉を閉めた。
背後から聞こえてくる。
「ほらね。怖くなかったでしょ。優しい人だったでしょ」
なんと。
坊やのあの固まった顔は私に怯えていたのか。
知らない家に住むおばちゃん。風船落として怒ってないか。むすっとでてくるかもしれない。
こんどから気をつけてねとか怒られるかもしれない。
でもあれは大事な風船。
泣きたくなっちゃう。
パパが一緒にいってやるから取りに行こう。大丈夫。怖くないから。
・・・と、怖がられていたのか。
ふふふ。おかしい。
息子が幼稚園の頃、他の園児から「おばちゃーん」と呼ばれたとき以来の衝撃だった。
ふっふっふ。私もうそういう歳なんだ。