お薬、出しときますね

からしっかりめの雨の音がする。

きのう、ベンチでぼけっとしてよかった。あの時間やっぱり貴重だった。

あの天気であの気温で、あの時間帯で、休日で。予定もなく体調も良く。

あれはありそうでないタイミングだった。

至福のときって意図して設けるのはむずかしい。

昨日は夫が飲み会で息子もいなく、一人きりの晩だった。夕方5時から風呂を沸かし、タブレットを持ち込み映画を観た。

ほのぼのとした親子物と思っていたら最後にきて、末っ子が実は亡くなっていてそれを妻に死なれたばかりの父に隠していたのだという展開になってくる。ロバート・デ・ニーロが声をあげて泣く。おーいおーいと泣く。

呑気な夜のつもりがやりきれない。それでもここで消してしまうのは悲しんでいるデニーロを切り捨てるようで見守る。

うーん。

ラスト、亡くなった妻の墓の前で「息子がそっちに行くよ。よろしくな」一人呟く彼は穏やかな表情でやや持ち直すが、しんみりしてしまった。

そうだビール飲もう!

缶ビールをお盆にのせてちゃぶ台に運ぶ。今度はもう何回も観ている海外のコメディドラマを観た。

安定の馬鹿馬鹿しさ。しかし数分前からのあまりのギャップに感情がついていかない。

ただただ、騒々しくオーバーに、あるわけない設定でドタバタと役者が動く。

いつもはクスッとするジョークも一歩引いて眺めてしまう。

うーん。

せっかくの夜なのに。

ちょっと疲れた体と心をのんびり、楽しく癒したいだけなのに、なにかを間違えた。

タブレットのうえに手のひらをぺたっとくっつけると、そのときにぴったりの動画を、それもぜったい外れないものをひとつ、選んでくれる機能があるといいなあ。

心の調子も体調もすべて把握して、今のあなたにはこれです。と選んでくれるのがいい。

処方されたお薬のように。