クマ氏

 今日は夫にエクセルの表作成を教えてもらう。

母の通っている体操教室の収支報告書を頼まれた。会計をやっているそうだ。

「これお願いね」

渡された時は昨年も頼まれたので、そのときのものがパソコンにまだあると思い、安請け合いをした。

ホテル関連で役にたち感謝された流れで私も調子にのっていたのだ。

了解。いつまで。

10日まで。

つまりホテルに行く前に仕上がっていて欲しいということなのだ。

家に戻ってパソコンを立ち上げたが無い。昨年度の収支報告書のフォルダが消えている。

そうだ、確か確認したら会計は1年間の約束だから捨てていいと言われ、削除したのだ。

断れなくてもう一年となったのだろう。

さてどうしよう。

ずっとずっと前、仕事で使っていた記憶を辿って作成してみるが、母に渡されたお手本通りに綺麗にならない。

ええい。

時刻を見ると午後5時半を過ぎている。業務時刻は過ぎ残業タイム。

お手本をの写真に撮り、ラインで夫に送る。

「お母さんに頼まれた。全くわからん。作れる?」

クマが親指を立て、OKとスタンプが返ってきた。

それから電話がかかってきた。

「ペラ一枚でしょ。大丈夫。心配しなくていいから。土曜の午前中にやります」

「文字打ちだけでもしとこうか。」

「いいよ、何もしないで、やるから」

母からの丸投げを夫に丸投げしたらキャッチしてくれた。

いい人だ。恩着せがましくもなく、面倒がりもしなかった。

いい人だなあ。

そういえばこの前、家の前に財布が落ちていた。朝、新聞を取りに行った時見つけた彼は、いつもより早く家を出て交番に届けるといった。

中には免許証もクレジットカードも入っている。若い男性のもののようだ。

「今頃、青ざめているだろうね」

「それは知らないけど、免許証とか悪用されたらいけないから」

大急ぎでおにぎりを頬張り出ていった。

「交番に誰もいなかったから、少し歩いて警察署に持っていった。これから出勤します」

ラインが入った。

この時のクマは大きく丸を掲げて笑っていた。

デリカシーはないけれど、憎めない。