内弁慶の母、頑張るのだ

三人娘のホテルのお泊まりは拗れに拗れている。

キャンセルをした友達は電話に出ない。認知症の友人の娘さんからは「どうかお願いします」と年を入れる電話が再度入る。母は母で、きっと彼女は老人ホームに入れられてしまって、もう二度と会えなくなるんだと決めてかかって、この旅行を中止するのはあまりに気の毒だと思う。しかしキャンセルした友人を説得するのが面倒で半ば、どうにでもなれとやけになりつつある。

頼まれたわけではないが、一旦キャンセルしたプランと同じ条件のものを予約したが、それが当初のものより高かったのが気になったので、改めて探した。すると今度は若干安いものを見つけたのでこれも予約する。

ホテルに直接確認するとどちらも全く同じプランだった。取り扱う会社が違うことと、キャンペーン中のクーポンを使えたことで8000円価格が下がった。

「同じ名前で二つ、同じ日程で予約が入っていますが、今日中に一つに絞ります」

そう約束をして電話を切り母のところに行く。

なんとかこの旅行を成立させるために説得するには、代替えプランが元の予算をオーバーしているより安いほうが話を進めいいだろう。

母は家の中では威張っているが友達にははっきりものを言えない。

揉めるくらいなら引いて我慢する。そして家族に文句を言う。だが、面と向かっては言えないのだ。

「同じプランで安いの見つけたよ」

持っていくと喜んだ。

あの人は頑固で怖いから嫌だと顔をしかめる。高校からの親友。

拗れたところで壊れない関係。

もう本当にめんどくさい。どうでもいいわ。投げやりになっているのを私は励ます。

まだ時間はある。今日、話をしてダメそうだったら明日また話そうとつなぐのだ。明日また話しあってもダメそうだったらまた明日話そうと粘るのだ。3日、ある。3日かけてどうしてもダメだったらその時こそ仕方ない。けど、ギリギリまでやれることはやるのだ。

認知症の彼女のためじゃない。

母本人が後悔しないためだよ。

頑張れ。