息子が荷物の整理がてら泊まりに来た。年度内に消化しなくてはならない休暇が残っているので月曜に帰るそうだ。
「月曜が古着の買取キャンペーンの最終日なんだよ」
なんだかんだいっても家に帰ってくる。よいよい、ゆっくり移行していけばいいのだよ。
夫は大はしゃぎで、嬉しいね、楽しみだねと週半ばから楽しみにしていた。
それを冷静な視線で見つめる妻。
こちらは持たせようとちょこちょこ、冷凍食品を拵えていた。
実のところ、いつ急に来てもいいように、体調の良い日の午前中、せっせせっせと備蓄していたのだった。
冷凍保存用のビニール袋に炒め野菜だの生姜焼きだの煮込みハンバーグだの、バリエーション豊かにたまっていく。せっかく作るのだから好みの味付けのものでないと。残して処分されたくないと、ついつい甘々で、息子が喜びそうなものばかりが出来上がっていく。
うすくぴっちり空気を抜かれカチカチに固まった袋が、まるで書類が保管されているように冷凍庫に並んで収納されている。
ほぼ、それで占めている。今現在の我が家の冷凍庫は。
夫の食事にそれらを使うのはもったいなくて、毎日毎日べつに用意した。
こっちはこっちで野菜をたくさん、そして多少、乱暴な味付けだろうと構わん。
なんのカッコつけなのかわからないが、あたふたやっているところを見せずとも、帰り際、ほれ、と渡してやりたい。なんてことないことかのように。
それが、崩れた。
昨日、日曜の晩、夫は明日から仕事、息子はもう1日休みなのでのんびり。ピザをとっての宴会だった。
「明日、特に荷物はないよね」
息子が言う。
防災用の三日分の食料のキットを買った。それが届いている。しかし段ボール箱で重いのでこれは宅配便で送ろうかと話がついた。
「あと、冷凍の食事があるからもってきなさい」
母親ぶって、母親らしく、サラッと付け加えた。
「あ、あれ、いいよ、ちょっと寄り道して帰ろうかと思ってるから」
え?あ、そ、そうなの?
「ああ、そう。じゃあ、また今度でいいね。まだまだ大丈夫だから」
動揺を隠し、答えると
「うん、でもまだあるから。あれあると、急いで食べないとって気になるから」
あ、ああ、そうなの。。冷凍だから急がなくていいんだけど。っていうか、多少、保存期間すぎても大丈夫なように、わざと、冷凍にしてあるんだけど。
これらを飲み込み
「ああ、そうなんだ。じゃあいいね」
とこれまたサラッとなんてことないように答えた。
作りながら、これ、いつまで続けるんだろう。いつまでもこれじゃあなあ。とも思っていたのに。それは突然やってきた。
もういらない。
ほっとすると同時にちょっとがっかり。
がくっときたと同時に、ちょっと安心する。
引っ越して二ヶ月。そりゃそうだ。
もう彼の暮らしの基盤はできあがったのだ。
夫よ、よろこべ。しばらく、ハンバーグだの生姜焼きだの、続くぞ。