あったかいほうじ茶

ラジオ体操が終わって帰ろうとしたら呼び止められた。

みんなの前でお手本をする人が大きな広場のあちこちに立っている。

私はいつからか、いつも定位置に決まって集まる可愛らしい五、六人のお婆さんたちの後ろにそっとついてやるようになった。

呼び止めたのはおばあさんたちではなく、その前でやっている60代の女性だった。

「会長さんが気にかけてて。ちょっと来てよ」

彼女とは時々、どうでもいい世間話はしていた。どうやら町内会の係かなにかの人なのだと勝手に思っていたが、会長さんとは。

なんの会長さん。町内会長さん?あの見知らぬ女はどこの誰だという話になったのか。

「会長さんが心配してるから。話せば大丈夫だと思うから、紹介するわ」

心配?

公園中央の円形花壇に連れて行かれる。

「会長、おはようございます、この前話していた、彼女、え・・・っとトンさんだっけ、そう、トンさんです」

なんでもこの人と立ち話をしているところを見かけ、あの人は誰、すごく痩せてるけれど大丈夫なの、病気なのと尋ねたらしい。

「こう見えてこの人、喋るとさっぱりしてて話しやすい人だから、説明するより会えばわかると思って連れてきました」

会長さんはニット帽をかぶって青いシャカシャカのウィンドブイレーカーを着た長身のお爺さんだったが、優しそうな目がメガネの奥で笑っている。あ、この人好き、とすぐ思った。

「いやいやいや、わざわざごめんね、ちょっと気になったんだよ、あんまり細いから、ごめんね」

低くゆっくり話す様子もなんとなく素敵。

「いえいえいえ。いまにもポキっといきそうですもんね」

笑って答えると、お手本女性が割り込んだ。

「ね、私もこの風貌だから声かけるの迷ったんだけど、声かけたら全然違って、面白い人だったから」

そうか、自分では見慣れているけれど、私は遠目から見てもギョッとするほど痩せているのか。

「おい、ミス、ミセス、どっちだ、ミセス、トンか、おめえお茶、飲んでけ」

ベンチに座っていた長老が紙コップを差し出した。

受け取っていただく。

あったかいほうじ茶だった。

町内会の集まりではなかった。

気がつくと輪の中に、去年通い始めた頃、ラジオ体操のやり方がプリントされた用紙をくれたイチイさんもいる。

あの時はただの世話好きなおじさんと思っていたが、ちがう。どうやらここはただのお気楽な集まりではなく、きちんと組織化された集団で、ここにいる人たちはその運営側のトップ。

あの怪しげな新入りは何者か。

怪しくない、怪しくない、ただの中年女です。今後とも隅っこでやらせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

お茶はあったかく、人もあったかい。

ちょっとホクホクした朝だった。

今そのまんまの私が迎え入れられた。