スッキリ

夫が仕事をしている部屋には入っていかない。

ときどき、昼ごはんを食べる余裕のない時、おにぎりを持って上がっていく。

メガネを外し、グッとパソコンに顔を近づけ、床に資料を山積みにし、何かに集中している。

「ホレ」

声をかけるとメガネのない顔のままこちらを向き「ああありがとう、ありがとうね」と受け取るのだが、なんかいつもモヤモヤしていた。

そのモヤモヤがなんなのか、対して気にもしていなかった。

昨日もそうだった。

大きなおにぎり二つ、ほうれん草の入った卵焼き。

ほれよ。

ああ、ありがとう。

モヤモヤ。

今朝、散歩から帰ると夫が起きていた。新聞を読んでいる。

メガネを外し、片手に持って、顔をグッと新聞に近寄らせ、読みこんでいる。

新聞と顔の間は5センチもない。

老眼鏡、買ったのに。度数が合ってないのかと、再度、調節もしたのに。

このほうが楽なんだろう。

あ。

モヤモヤの原因。

「ねえねえ、あなた、会社でもそれ、やってんの、メガネ外すの」

すると誌面からパッと目を離し、メガネを装着してやや、うっすら苦笑のような照れ笑いのような曖昧な笑顔でこちらを向いた。

「なんで、おかしい?」

やっとるな、これは。

「おかしいっていうより、やばい。なんか、ちょっと・・・やばい空気感が漂ってる。下手すると陰であれすごいよねって言ってる人もいるかも」

「あ、そ。わかった、気をつける」

ニヤァっと笑った。

そうは言っても、今日、出社して、また同じようにパソコン画面に首からくっつけ、資料もくっつきそうな距離まで顔を近づけて読むのだろう。彼は基本、人のいうことは聞かない。自分が痛い目に遭うか、利害が一致するなど納得した場合のみ、意見を取り入れる。

職場は彼の社会だし。

私の世界ではない。言うには言った。

その様子がいかにも昔の漫画や映画の中に出てきた、何かいつもへんてこりんなものばかり発明しては失敗する、変わり者の科学者のようで、変に見えると感じていたことがモヤモヤの原因だった。

これを外でやっているのかもと無意識のうちに気にしていたのかもしれない。

今朝、その問題点に気づき、本人に伝え、彼も受け取った。

モヤモヤは晴れた。

なんだかすごく謎がとけたようでスッキリした。