息子が帰って行った。
やはりあの時のキュンとした気持ちは慣れていなかったからのようで、今回は「じゃぁね、また次、お墓参りでね」とケロリと送り出せた。まるで大学に通うのを送り出すように。
それもきっと歩いていける距離に住んでいる気楽さと安心感からなのだ。
本人はあまりに近すぎることになんとなくきまり悪さがあるようだ。母と姉がこれを聞いた時、ガハハと笑ったこともある。
体調を崩した時、様子を伺いたくなった時、すぐにいける距離にいてくれるからこそ私はこんなに呑気に構えていられるのかもしれない。
それでもやっぱりこの日のために作りおいた冷凍おかずを一週間分持たせる。
前回は張り切りすぎて冷凍庫用、冷蔵庫用、うちで余っているレトルトのスープと何も考えずに用意したら旅にでも出るのかというような大荷物になってしまった。
今回は薄っぺらくジップロックに詰めたものを帰る間際に冷凍庫からささっと出して渡す。
「ほれ、持っていき、リミットの日付が書いてあるから、日付の近い順に食べてね」
「おお、甘やかされている、優しいのう」
こういうのもきっと慣れとコツがあるのだろう。どういう食材がいいか、どういう料理が向いているのか、意外とどいういうものが好まれるとか。今はとりあえず野菜と肉が一緒に取れて、かつ、ボリュームのあるもの。そして、ぺっちゃんこになるもの。
2キロ減った体重は戻った。
相変わらずベーコンエッグとレンジの焼きそば焼きうどんが多いらしい。
昼、会社近くの定食屋で魚を食べるようにしているそうだ。
こっちにくる前に一週間分の洗濯をして壁中に吊るしてきた。
彼の暮らしがそこにある。
「俺さ、トイレ、座ってするようにしたんだ。壁とか汚したくないから」
なぬ。こっちではおかましなしに立って済ませていたし、今現在もそうだというのに。自分の家だとそうなるのか。
それでもちょっとホッとする。いつか誰かと暮らすことになった時、そこ、大丈夫かと気になっていた。
小さな2DKの居心地がだんだん良くなっていく。そこが彼の住処なのだ。