家庭科の時間

いよいよ追い詰められた。

去年の誕生日に母がくれた刺繍のキットを完成させないとならない。

裁縫も手先のことも苦手な私になぜ、これを・・・。

「急いで仕上げなくていいのよ」

「うん、年内までにって感じでのんびり楽しむよ」

もらったときにそう言った。年内というのは随分保険をかけたつもりだったが、気がつけばそれを通り越し、次の誕生日が迫っている。

まずい。

確かこの前手をつけた時は、窓際で後ろは網戸だった。そして、刺繍に集中して疲れて夕方、公園に歩きに行ったんだった。

夏だった。気がする。

あのとき、この調子でちょこちょこやれば楽勝だとたかを括って箱にしまった。

その箱を引っ張り出す。

楽勝でもなんでもないじゃないか。私の嘘つき。半分も終わっていない。

観念して午前中、取り掛かる。

ラジオをつけて聴きながら、ひと針ひと針、刺していく。

上手にやろうとするのはやめた。終わりを見据えて焦るのもやめた。

針を刺し、ひっぱり、抜く。糸を何本、ステッチのやり方をいちいち案内の紙を見て、やる。

終わらなくていいと開き直ると、案外、楽しい。

葉っぱを一つ、完成させた。

それから小さな蕾のようなのをいくつか、フレンチナッツ。

まだまだ半分もいってない。

楽しいっていう感覚が薄くなって、修行のような気分になってきたので、やめた。

葉っぱと、ポツポツをいくつかで午前中が終わった。

よく、頑張った。

さあて、午後は海外ドラマ観ようっと。