春は近い

お雛様をしまった。

いつものように玄関ではなく息子の空いた部屋に飾り、そのドアを開けっぱなしにしていた。毎朝毎晩、階段の突き当たり奥にお二人が並んで座っているのが見える。

玄関も出入りの度にみんなの目に留まり寂しくなく良かったが、狭いところに無理やり置かれ、背後に窓があり寒く、人がいないときに真っ暗で、なんとなく申し訳なく思っていた。

今年は明るく広い部屋で夜は暗いには暗いが、寝る寸前「おやすみなさい」とご挨拶をする。私に釣られて夫もしていた。

息子がいないとこういうところの恥ずかしさがなくなり、子供のように声をかけた。

この部屋はベッドも机もそのまま。

大きな段ボールに本がぎっしり入ったのが二つ置いてあるくらいでガランとしているが、まだ使っていない。

北向きで、今の季節まだ寒いというのもあるが、やはり、まだ時々泊まりにくるのに、乗っ取りましたと言わんばかりに私の私物を置くのもと、その気にならないのだ。

あれほど計画を立て楽しみにしていたのに、どこか遠慮してしまう。

1ヶ月に一度か二度帰ってくる彼は、私の意識の中ではまだ、半分この家の住人なのかもしれない。

私の誕生日を祝う食事会をするようにと、母からお達しがあった。

正直、めんどくさい。しかし、祝うことができる状況、環境が整っていることに感謝したいとも思う。

母が私を産まなければ、今の私の全てはなかったのだ。

母が私を産んだ日。感謝の日。

「そういうわけで、九日、来てね」

息子からかかってきた電話の最後にそう言った。

「夜、行けばいい?」

「いいよ」

「えっと、その日は・・泊まらないといけないの?」

おっと。

「うううん、どっちでもいいよ、かったるくなったから泊まってくってなってもいいし、遅くなっても自分家に帰ってのんびりするっていうんでも、どっちでもいい、その時の気分で」

うん、ま、また間近になったら連絡するよ、と電話は終わった。

えっらそうに。

食べるものがあるときは電話をしてこなくなった。

半住人と思っているのはこっちだけのようである。

今朝、公園で沈丁花のいい香りがした。