結局、母の友人からのダウンはもらった。
なんだかんだいいながら、抜群の暖かさに脱帽である。
新品ではなく、ちょっと汚れてる。でもそのぶん、かえって公園のラジオ体操のとき心置きなく芝生における。ちょうどいいのだ。
母はやっぱり呼びにきた。
「今来てるんだけど」
ちょうど揚げ物をしてとっ散らかっているときだった。
「だから呼ばないでっていったじゃん」
眉間に皺を寄せて言ってしまう。
「すぐ帰っていいから」
見ると私の足元には赤いレッグウォーマーが、黒いズボンの上から膝下まで伸びている。
あ、と思ったが、まあいいや。
「こんな足ですまん」
ゲラゲラ笑いながら母に言うと、「いいからいいから」と母も笑う。
そしてやっぱり母は似合ってる似合ってるとプッシュする。
正直、腕のあたりがきゅうくつで、そう言うと
「そんなにモコモコ着てるからよ、脱ぎなさい」
とさらに圧をかけてくる。
それでも、着てすぐわかった。これは、今持ってるダウンより身体に密着しているぶん、あったかい。早朝散歩にはもってこいだ。
「着ます、ありがとうございます」
もらうだけもらってさっさと部屋を出た。
「いいものいただいちゃって」
母が弾んだ声でいっているのが後ろから聞こえてきた。
もう、いらないのに、なんで持ってきてっていったのよっ。
そう言わなくてよかった。
だから呼ばないでっていったじゃん。
すぐ帰っていいから。
こんなふうに母と話せるようになっていた。
つい最近まで、母の癇癪をおそれて言葉を飲み込んでいたのに。
今は怖くない。
やさしい言葉だけをかける娘はもうやめたけど、水臭い親子でなくなった気がする。
ダウンをもらったことより、こっちが嬉しい。