拗ねた

やる気が出なくてやたらだるく、床に寝転んでいると、窓から母がノックする。

お化粧をしてコートを着ていた。

出かけてたの。

そう、お友達のお誕生日だからご飯、ご馳走様する約束してたから。

親友の死に向き合った翌日、そういう予定が入っていてよかった。表情も明るい。

デパートの物産展で九州のお煎餅を買ってきてくれた。

夫君に私がわざわざ買ってきたんだって必ず伝えてね、夫君のために、買ったんだから。

お茶目に言う。

夫は煎餅が大好物だ。彼女の冗談と愛情表現も、朦朧としている頭には鬱陶しい。気の利いた返事も思いつかず喜ぶよ、ありがとうと受けとった。

あ、そうそう。

真顔になる。

こっちも、構える。

お友達が息子さんからダウンだか、フリースだか、とにかくもらったんだって。けど小さくてきついからあなたにどうかしらって。近いうちに持ってくるわ。無下にも断れないでしょう。あの人はなんでもはっきり言う人だから嫌だったら断るから大丈夫って言っておいたから無理じゃないから。

めんどくさい。

自分がはっきり言えないから私をなんでもはっきり言う人にしたな。

これでも気を遣っているんですけど。

ニヤリと返してみたが、聞こえていないのか流された。

わかったけど彼女が持ってきたとき、呼びに来ないで。あとで渡してよ。着てみて嫌だったら自分で彼女の家に持っていくから。ごめーん、ダメだぁって。

どうして、その場で着て、嫌なら持って帰ってもらえばいいじゃない。

母は一瞬、顔を曇らせ、少し、膨れた。

いいよ、いつだかわかんないんでしょ。いきなり呼び出されるのめんどくさい、二人の前で着たりするのも。

目に浮かぶ。

嫌なら断ればいいと、言いながら、母はきっと言う。

あら、いいじゃない、似合ってるわよ。

一枚そういうのがあると便利よ。

なんでもはっきり言う私でも、その状況では、そうねえと、なるであろう。

いるか、いらないかは、私が、一人で、自分で、決めたい。

そこまでは言わなかったし、その時はそこまで考えて言ったわけでもなかった。

けれど後から思い返すと、そういう心理だろう。

ちょっと拗ねてる。

こういうことするから気難しいって言われるんだ。

一番強くてなんでもはっきり言って気難しい子。

…。あ、やっぱ根に持ってる。

先日の葬儀の件も、あの後あちこちに相談の電話をしていた。その度に、そうなのよ、トンはドライだから行く必要ないって言うんだけどねと聞こえてきた。

ちっちぇえな、わたし。

自分を意図しない方向に持っていかれ吹聴されていることに拗ねている。

それって、私はそんなんじゃない、こういうふうに思って欲しいってのと一緒じゃないか。

てばなせよ。

私はこういう人っていう枠、捨てよう。手放そう。

そもそも人ってそんな枠の中に収まらない。

もっと大きく。もっと無限に。広がってゆく存在。

その一部分を切り取って、こういうキャラクターと人が思うのも無限。自由。

自分自身、分析しない。決めつけない。色をつけない。意識しない。

あんなことに引っかかるなんて。幼い。

。。。可愛いじゃねえか、私。

自己嫌悪と苦笑。