息子を見送る時、意外な事実に直面した。
出て行く時、引越しで出て行った日よりも、一瞬うっと感傷的になった。
いつものように、これまでずっと見せてきたように、ひょいと片手をあげて、いってきますというポーズをして出ていった。
だが、彼はここに帰ってこない。帰っていったのだ。自分の家に。
ああ、彼の根拠地はここじゃないんだなあ。
ここは休憩しにくる場所なんだ。そんな感じ。離れたんだということを実感したのだと思う。
とはいうものの、矛盾しているのは、やれやれと開放感を味わっているのも本当。
これはなんだ。
一緒に暮らしていた時よりどこか、もてなす。興味のないテレビがうるさくいつまでもついているのも、これまでなら「消してよ」「観てる」「観てないじゃない、スマホ見てて」「聞いてるんだよ」などとやるのについ、まあいいか、寛いでいるんだと譲る。帰る前にあれこれ持たせようと台所に立つ。母が一緒に食卓につくことも非日常で、やや気を配る。
たった二泊だったのに、今日はぐったり使い物にならない。
お客さん。
そう、息子なのに彼はもうお客さんになっていた。
せっかく来たんだから、ゆっくりしていってほしい。と、見えない糸をピンと張っていた。
やめようやめよう。次回はこき使ってやる。
私もはじめてのことで張り切りすぎた。
そもそも、隣の街だぜ。おい。