てっきり来るもんだと思っていた。
家を出たと言ってもしばらくは週末になると帰ってきて、寂しさを癒やし、食事をし、家族の温もりを恋しがる。
そして毎日の食事が作れないでどうしようと、言う。
私は作り置きを持たせる。
恥ずかしながら実際、いくつかのおかずを冷凍庫に準備していた。
そして内心、これはいつまで続くんだろうと、偉そうに気が重かった。
できる範囲でいい。毎週毎週、用意することない。時には買ったレトルトを持たせたっていいじゃないか。
そう自分を励まし、気持ちを落ち着かせていた。
ところが。
「今、ジムの帰り。スーパーにいるんだけど。この前言ってたアルミ鍋のすき焼きのやつ、あれってそのまま火にかけていいの?」
電話が来た。午後1時。
これから帰って溜まりに溜まった洗濯をすると言う。
寝坊してジムをさぼり、仕方なくそこから洗濯をして、午後にでもこれから来ると言ってくるのかもとぼんやり予想していたのはスッパリ外れた。
アルミ鍋を聞いてくるということは、今夜はそれをやってみるつもりということだ。
ホッとする。同時に当てが外れて力が抜ける。
「明日はニトリと無印に行ってラグとちゃぶ台、買おうと思っとる」
いいねえ、楽しいねえ、満喫しとるねえと返しつつ、なんだ今週は来ないのかと、思う。
ラッキーと思うのも本当。
あっけないと思うのも本当。
今、スーパーにいるなら、2階に上がると百均の店が入ってるからそこで計量カップと大さじ小さじを買うといいと指令する。
「ネットに出てるお手軽レンチン調理には水何カップとか醤油大さじ何杯とか、あるから必需品だよ」
「そうか。今売り場にいるけど、大匙ってなんかジャラジャラしたのもあるけどこれはいらないな」
それは小さじ2分の1ってのがついてるから、几帳面なあなたにはあった方が便利だよと教える。
「なるほど」
あと、お米も買え、みかんとチーズも牛乳も買っとけと私は言い、息子はうちで使ってたマーガリンは、どこのなんてやつだと聞く。
じゃーね、楽しんで。
おう。
「今週来週はこっちで再来週あたり、あのよけておいた服、古着屋に持って行くから一度帰る」
「へーい」
あっけない。
こんなにあっけないものか。
自由だ。
嬉しさと戸惑いと、解放感と。
唯一昨日の私をいい勘してると褒めてやりたいのは、たくさんの作り置きを、全て冷凍したこと。あれは1ヶ月は、保つ。