午後2時、母が来た。
「お姉さんに怒られたからこれからお医者さんに行ってくる」
熱も下がり、出社し始めた。今日は休みで今は鍼治療に出かけていると言う。
姉もやっと自分に余裕ができ、ふと、目の前で足を引き摺る母に気付き、叱った。
「歩けなくなったら私が困るんだからって、怒られちゃった」
姉、good job。
整形外科に行くにあたり聞きにきたのは、レントゲン技師が本当に女性なのか、若いのか中年なのか。
下着はどこまで脱がされるのか。
そして診察のとき、男の先生の前でもズボンを下ろすのか。
乙女はあれこれ心配する。
私の感覚でいくと、レントゲンを撮るだろうから脱ぎ着のしやすい格好でと、ゆるゆるのものを身につけるのだが、彼女は違う。
ズボン下の長い下着の上にガードルを履き、その上にズボンを重ねているという。
金具が付いてなければ脱ぐ必要もないよと言うと、レースは大丈夫かと問う。
大丈夫。
でも先生のところではレントゲンの結果次第ではちょっと見せてくださいねと、診察室の中のベッドに横になってズボンを下ろすこともあり得る。
「あの先生は優しいよ。デリカシーもあるからささっと、事務的に済ませてくれるから、変にモジモジしないでいた方がいいよ」
わかった、行ってくると、いつになく神妙に頷き家を出た。
数年前、庭で転んで膝の骨にひびをいれた。そのときの先生のところに母も行く。
ちょっとハンサムだけど自覚はなく、自然体だけどぶっきらぼうでもなく、丁寧で優しい、でもおべんちゃらも、お世辞も言わない、いい意味でそっけない、中年の男の先生。
その彼の前でズボンを下ろすか下ろさないかの方が、骨が折れてるかどうかより、気になる母上を心配いらないからねと送り出した。
夕方、台所に立っていると帰ってきたら母がまた顔を出す。
「骨も関節も問題ないって!」
晴れやかに目をぐいっと見開き言いにきた。
「炎症は少しあるけどどこも異常ないって。あなただったら折れてたわよ、きっと」
憎まれ口も復活、元気を取り戻した。
「あの先生、優しかったでしょ」
「そうね、紳士ね」
レントゲンから異常なしと診断され、結局ステキな先生にお尻を見せることもなく済んだそうだ。
異常なし。いい言葉。
体操教室も吹き矢も行っていいとお墨付きをもらい、ご機嫌で姿を消した。
レントゲン室でガッチガチに固めた下着は結局どこまでぬいだのか、聞くのを忘れた。