息子はここ連日10時まで会社にいて、いまだに洗濯機を回していないそうだ。
「ついに下着を買ってしまった」
「いいじゃない。たくさんあったほうが」
一人暮らしはもっとなんでもきっちりやるはずだった。あの神経質な人が毎日洗濯をしていないというのは、おそらくイメージしていた中では、ありえないことだ。
実家では遠慮なく毎日、ちょっと使っただけのバスタオルも半日履いただけのウールのパンツもなんでもかんでも洗濯機に放り込んだ。
私も分けて、自分でやるよう仕向けることを怠った。あれこれ揉めて文句をいわれるくらいならこっちでやってしまったほうが楽だったからだ。
必要に迫られたらなんとかするだろう。いまの家電はかしこいし。
結局、掃除も洗濯も炊事もほぼ、できぬまま、家を出た。
洗濯機にどんどんたまっていく下着とシャツ。
バスタオルは、ハンガーラックに干して、連日使っているそうだ。
「大丈夫。綺麗な体拭いたものだし。だいじょぶだいじょぶ。」
息子がルーズになっていくことは、思わぬ誤算であり、棚ぼたであり、好ましい。
昨夜はレンジで焼きそばをやってみたそうだ。大皿に麺を置き、カット野菜、豚バラ肉をひろげてラップしてチン。混ぜる。
「素晴らしい。それができたらあとは応用で、うどん、野菜、たら、豆腐、冷凍餃子やウィンナーでお鍋、トマトと鶏肉とピーマン、キャベツでシチュー、なんでもいけるよ。」
「おお、確かに」
親子で細くひらけた道筋からの希望の光に喜ぶ。
なんちゃってレンジ料理でもなんでも、野菜とタンパク質と炭水化物を自分でなんとか食べることができるようになったことは、なにより安心した。
それができるなら、作り置きを必死にやらなくっていい。