自己満足と一致団結

昨日、息子の移動は完了した。

最終的に狭い部屋に家族三人が入り、夫はバンバン箱を開け、息子がどんどんしまい、二人で小競り合いをしつつもあらかた片付いたところで真打登場。

新居から歩いてすぐのスーパーで待ち合わせた息子に便利な食材と調味料、だいたいの値段の相場、お便利グッズと私が呼ぶ食材と絡めれば中華や煮物が完成する商品、などを伝授する。

私の予定ではここで冷凍食品やカットされている野菜、肉などを買わせ、冷蔵庫にしまいがてら部屋の様子を覗いてすぐに帰るはずだった。

なにしろ、朝からずっと一週間分の食事を作り置きしていたので足がパンパンだ。

甘やかしだとわかっているが、やはりとことん甘くしてやりたい。

急な思いつきだったので家にあった食材でできるもので、彼が好きそうなもので、野菜も肉も同時に摂れるもの。

どれもこれも簡単なものばかり、レンジで作る青椒肉絲、生姜焼き、鶏照り焼き、ナスの煮浸し、ミートボールとブロッコリ、鶏唐揚げとフライドポテト。

家中のタッパーを総動員して、詰めた。

作業の途中、用事で外出し、なぜかこっちに戻ってきた二人に昼食を出し、再度送り出す。

この昼食も、勝手に冷凍チャーハンをと思ったが、つい、最後だしとパスタを茹で、卵を焼く。これも完全に、自己満足。

自己満足といえば、昨夜もそうだった。疲れたからカレーでいいやと思い、また思う。

最後の晩なんだし、手の込んだものにしてあげよう。

豚こまを包丁で叩いて挽肉にしたのと合い挽き肉を混ぜたハンバーグにした。

作り置きも、昼ごはんも、やらないと自分がモヤモヤスッキリしない気がした。

私が彼にしてやれてきたことは、メシを作ることくらいだったからだろう。

昼食を済ませた二人を再度送り出し、今度は夫の好物のおでんを仕掛ける。

夫も今日はよく働いている。息子ばかりじゃない、キミものことも忘れてないよ。

晦日よりはたらいてるわ・・。

そう思いつつ充実感。してやれる体力のあるありがたさ。喜び噛み締めながら台所に立つ。

そういうわけで息子近所のスーパー。待ち合わせに向かう頃、足パンパン。

すぐ帰るつもりでいたのが部屋に入ってみると、妙なところに妙なものがしまってある。

台所の吊り戸棚の上になぜか、洗濯洗剤。台所の下戸棚に食器。

このあたりは、箱を開けた夫がとりあえず、入れたと言う。

いやいやこれは使いづらいよ。

つい。

トイレのクリーナーはトイレの棚に。フライパンは上に。食器も上に。インスタント類は下に。行き場がないと床に積んであったタオル類は段ボールで即席の引き出しを作ってクローゼットの上に。

風呂場の髪とりネットから、ゴミ袋、クイックルワイパー、お玉、ザル、中途半端で床置きされていたものをすべて片付けるとぐっと部屋は生活感のあるものへと変わっていった。

ベッドから私と夫の荷物をどかし、ベッド下に束ねた空の段ボールを滑り込ませ、ゴミ袋を玄関に持って行く。

そしてドアを閉じる。

「ちょっと玄関から歩いてきてごらんよ」

言われた通り、進む息子。

「ドア開けて入ってごらん、ただいまーって感じで」

「おぉ」

「いいじゃーん、いいじゃない、いい感じ」

夫もいいね、いいねと喜ぶ。

喜ぶ二人に得意顔の私。

暗い部屋に仕事から帰ってきて、入ると床にはまだ未整理のものと段ボールだらけよりは、ちょっと気持ちの弾む場所にしておいてやりたい。

これも、自己満。

なぜなら、夫の単身赴任のときにはそんなこと、ちっとも思わなかった、そういえば。

「じゃ、帰るから」

時計を見たら17時54分。

さっきのスーパーにより、今度は母に頼まれた買い物をして二人、帰宅。

明日は雨だからラジオ体操もないから飲むわと、ビールを開けた。

「独立にかんぱーい」

晴れやかな夜、私も夫もなぜかはしゃいでいた。

私たちも新生活が始まる。これはこれで新婚の頃の懐かしい気楽な空間。

 

今。

予報通りの雨。8時までベッドにいたのも久しぶり。

私も夫も息子も、それぞれの朝。

清々しい。