呑気に過ごすと決めた

昨日は危なかった。

夫のクリスマスプレゼントを買いに三軒茶屋まで行く予定だった。

実際行った。

出かける前から寒くてしんどいなあと、夕飯の下拵えも掃除も洗い上がった洗濯物も全て放り投げ、家族の昼ごはんも、帰ってくるかどうかもわからないし、無きゃ無いでなんとかするだろうと、とにかく家を出た。

本当はちょっとお化粧でもして、ついでに自分にも何か楽しいものでも見つけたら買おうとか、クリスマスの賑わいのキャロットタワーを冷かそうとか、あそこのリサイクルショップを覗こうとか、企んでいた。

が、朝のラジオ体操の服装そのままに、ジャージの上にダウンを羽織り、ほぼすっぴんのまま、バス停まで歩く。

なりふり構わずとはまさにこのこと。

バスが来ない。来ない来ない来ない。寒い。寒い寒い寒い。

最新式のバス停ポールに「到着予定時刻、1時33分」と出た。随時バスから何かの信号で通信されているのか。どういう仕組みになっているんだろう。

時刻は12時45分。時刻表では本来、次は12時55分なのに渋滞だろうか。イブ前の土曜日、みんなお出かけで道が混んでいるのか目の前の道路の二車線も、向こうはスイスイ動いているのに渋谷方向のこちらは詰まっている。

何かの間違いじゃないかともう一度、見る。やっぱり1時33分。そして携帯の時計もやはり12時46分。

途方に暮れそうになっていると、目の前のお爺さんが「ふっ」と呟いて、歩き出した。

つられて私も歩く。

寒さに耐えてここで待つか。しんどいけど歩くか。動いている方が気持ちも紛れるし、少しは温まるかもしれない。

それでもリサイクルショップを覗くのは忘れない。

冬物の面白いものが、楽しい値段でズラリと揃っていた。掘り出し物の匂いがぷんぷんするのに、体力に余裕がない。そしてまたこの店が寒い。

出直そう。

また歩く。サーティワンでは長蛇の列ができていた。クリスマス用のアイスケーキか、それとも今、食べるのか。

嘘でしょと、心の中で呟く。

無印についた。

決めていたシャツを迷わず2枚、手に取る。

あっちもこっちもセールでここにも掘り出し物の匂いが充満している。

薄手のダウンコートも、毛布のような寝巻きも、タートルネックのセーターも、みんな安くなっている。

地下の文房具で手帳を買おうと思っていたが、もはやその余裕すらない。

1900円でネルのシャツがあったので母に買う。シクラメンを送ったので彼女のクリスマスプレゼントはもういらないのだが、姉にあげる時、やっぱりおまけで何かあったほうが喜ぶかもしれない。

それぞれ無料のプレゼント包装にしてもらい、まっすぐ帰る。華やいでいるはずのキャロットタワーはすぐそこなのに、無念だ。

ぶっ倒れる前に帰らねば。

たかだか隣町まで、それも都内の、お気楽な買い物のはずが、遭難寸前の命懸けのようなものになってきた。

家に着く。

暖房をつけ、ダウンを着たまま、うずくまる。

頭の芯が痺れているのが少しづつ少しづつほどけてゆく。

体の方は何をやってもゾクゾクとして強張ったまま、床に突っ伏し毛布を被る。

 

やめよう。

今年は。大掃除。やめよう。

息子がこの家で迎える最後の暮れ。

機嫌よく、寝込まず、呑気に過ごそう。

器以上に頑張ったりせず、イベントを楽しむくらいのノリで、みんなで笑って過ごすのだ。

黒豆、栗きんとん、伊達巻き。おでん。

作るのはそれだけ。

あとはチンしたり、デリバリーしたり、なんでもありで、楽しく過ごそう。

生きてるだけで、ありがたい。

笑っていられたらもっとありがたい。

じわじわ暖かくなってきたホットカーペットにお腹をくっつけ、そんなことを考えた。