息子が一人暮らしをする部屋を見つけてきた。
先月から探している様子だったが、まだどこも内覧しておらず、数件の不動産屋に出入りし、相談して帰ってくるだけだった。
「やっぱりこの家賃じゃ難しいのかなあ」
その日も、ネットで見つけた不動産屋をどんなところかちょっと見てくると出ていった。
そこは暗くじとっとしていて、人の出入りもない。なんか違うと店内には入るのはやめた。
ふと、その数メートル先にも一件、ある。
「なんか感じいいなと思ったんだよね」
ふらりと入った。するとちょうど明日、退出予定の物件があるという。
既に内覧申し込みが4件入っているが、時間があるなら同じ間取りの別の部屋をこれから観にいくかとなった。流れで同じタイプの別の部屋を見せてもらい、あまりに自分の求める条件ぴったりだったので申し込みをして帰ってきた。
まだ借主がいるが、翌日空く、というところにひょっこり偶然訪れた。
後日改めて、退去したばかりのところを見に行き、決める約束をしてきたという。
隣駅から歩いて5分の6階建てマンションで、私がよく散歩で歩くコースだった。
「あそこかぁ。よく空いてたね」
国道246から一本入った、うるさくもなく、落ち着いたいい場所だと思う。
想像のつく場所での暮らしに、内心、安心する。
目の前には24時間営業のスーパー、消防署、警察署、郵便局がある。
私が住みたい。
夫はあまりの展開の速さにとまどい、一言多い。
「いいけど、ここ、駐輪場の柱から登れるから不用心じゃない?」
いい物件をみつけ、意気揚々としていたのが、急に不安になる。
だいじょうぶかな、やめたほうがいいかな、でももう申し込んだし。
「もう一度、物件を実際に見たら答えがわかるって」
「どうでるんだよ」
「あ、いい。ここだ。もしくは、あ、違う、とか。不思議と扉を開けてその場に立てばわかるよ。感じるよ。その感じた通りにすればいいんだよ」
そして、決めたのだった。
決まる時はあっという間に決まる。
引き渡しは来月。もう1ヶ月を切っている。
え。
今年が最後の一緒に過ごす年の瀬で、来年の正月が一緒に迎える最後の正月。
現実味がわかない。
なんとなく嬉しい。
いよいよ独立だ。神様から預かった命を無事、送り出す。
来月の今頃は、なんとなく寂しいとなるのだろうか。ぼんやり思う。