ズンズン歩きぴょんぴょん跳ねる

笑顔がいいわと言われた。

朝のラジオ体操で、前に立ってお手本をやっている女性に言われた。

「初めここに来始めたころは、痩せてらっしゃるし、話しかけづらいエネルギーを感じたけど、声かけてみたらとってもフレンドリーなのね。笑顔がいい、すごくいい」

 

朝、目覚めた時は家族のややこしくなりそうな問題が一つ持ち上がったぞと少し、気が重かった。

私がどうこうすることではない。かといって、全く関わらないというわけにもいかない。家族の中にひと旋風、巻き起こる前触れのようなものを感じて身構える。

私の役割は、恐れず、出しゃばらず、何が起きようとでんと構えていることだ。

そして、大事なものは守る。誰になんと言われようと、守る。それだけ。

そんなことを自分に言い聞かせる。まだ何も起こっていないが、いつもは凪のような心は波うち、頭の中では風見鶏がグルングルン回っている。嵐の気配。落ち着かない。

事細かにこのブログに書こうか、でも家族のプライバシーも関わるからそうそう具体的にもまだ書けない。

もっと道筋か見えてきたらだな。いや、でも今の状態をやんわり書こうか。ストレスの軽減になるのかもしれない。

そんなことを考えながらずんずん朝の道を歩く。

私は考え事がある時、ずんずん足早になる。ただ、ただ、右、左、右、左、とやって頭を空っぽにする。

あんまりずんずんしたものだからいつもより早くラジオ体操の場所に着いてしまった。

早すぎたので公園の中をぐるりと反対方向に、また意味なく歩く。

ラジオの音が聞こえてきた。数人、集まり始めた。

また、くるりと反対を向いて、私も戻った。

「おはよう」

「おはようございます」

「体調はどう?」

「この間の知恵熱が良かったようで、スッキリしています」

「そう、そういうのあるかもね。ここに来始めた時、弱々しそうだったけど」

そこで言われたのだった。

「笑顔がいいわ、あなた。すごくいい。」

母に笑うと顔中シワシワになってお猿さんみたいだから笑うなと言われている。

久しぶりだった。そんなことを言われたのは。

高校生の頃、住んでいたビルの掃除のおばさんに、挨拶するとよく言われた。

あなたの笑顔、気持ちいい。すごく。心がパッとする。

病気をしてから、あの私はもういなくなってしまったんだと思っていた。

どんなに回復しても、限界はあって、あの頃の私にはもう戻れない。溌剌とした笑顔の私。

それを悲しく、けれど割り切って諦めていた。

あの一連の苦しみがあってこそ、今の私がある。失うものがあるのは仕方ない。

しわしわの顔になるから笑うなと家族に言われているんだと喜ぶと

「そんなことない、いい、いいわよ、すっごく、私、お世辞は言わない」

真面目にきっと睨んでくれた。

嬉しかった。

こんな気持ち、嬉しかったなんて言葉でなく、もっと具体的な表現で言えればいいのだけれど、嬉しい、それだけだった。

はずむ、心がはずむ。

私の中の高校生の頃の魂は消えてなかったんだ。

さっきまで頭を占領していた厄介ごともどうにかなるさと飛んでった。

ぴょんぴょんぴょんぴょん、ラジオ体操の音楽と号令に合わせて跳ねる。

心も跳ねる。

帰り道、今度は陽気なリズムでやっぱりずんずん歩く。