やはり母に呼ばれた。
姉に都内ホテルのお泊まりを断った件、について。
「お姉さんあなたを可哀想におもって誘ったのよ。べつにどっちでもいいのよ」
「わかってる」
やはりそうか。
「でもお姉さん、さびしそうだったわ」
「うん、そうかなって一瞬思った。ごめんねって言った時。でもね、もうやめたの、お姉さんの気持ちを察して合わせるの。ちょっと無理して気を遣って喜ばせたりするの、やめようと思ってさ。もっとストレートに単純にしようと思って。お母さんが死んだ後、二人で付き合っていくのに。私がこういう奴なんだってわかってもらったほうが気が楽だもん」
母はちょっと嫌な顔をした。
ああ、いま私はこの人もがっかりさせた。
私が私の思った通りにするとき、二人の気分をざわつかせる。
それがわかるから、いつのころからか、期待に応え二人の想定するキャラクターの私をやってきた。が、それをもうやめようと、最近になって思い始めた。
じわじわと感じるままの自分を出しているつもりだが、やはり、違和感を感じるのだろう。
なんとなく、反応にとまどいと、怒りと苛立ちと、悲しさを感じる。
その度に私も傷つく。
ここでへこたれてしまったら、互いに傷つけあった記憶が残るだけになる。
前にすすむのだ。
私も強く、二人も強く。
受容し合い、いいところに落ち着くはずだ。
怒り、悲しみ、受容、諦め。
バカだけど、どこにでもくっついてくる可愛い子。その私はもういない。
バカで、わがままで、頑固なわたし。
嫌なものはいや。
でも正義感はあるよ。
お姉さんを傷つける人がいたら飛んでってやっつける。
お母さんが困ってそうだったら面倒臭がられてもかけつけて世話を焼く。
頑固だから。いうこと聞かず思いつくだけのお世話を焼くよ。
スマートじゃない、使えない、役立たずと言われるのが嫌だった。
私もそれを受容しよう。
どんな人間という印象だろうと、それを恐れない。それもよし。
もう自分をアピールしない。
役にたつ自分でいるより、本来の自分に近づこう。
本来の私って何が好きで、なにに夢中になるのか、よくわからない。
わからないけど。
違うなと思うこと、ひっかかることは、丁寧にひとつひとつ、やめていく。
小さく自分についた嘘を、やめていく。
この歳になってそんなことに取り掛かるから周囲も混乱するだろう。
高齢の母も悲しみ怒ることもあるかもしれない。そう考えると、心が痛む。
でも。
ごめん。ごめんね。
私が私自身を愛するために、やるよ。
母よ、だから長生きしておくれ。
姉よ、使えない妹を諦めておくれ。
ごめんよぉ。