海を渡る荷物

古着でワクチンをついに終わらせた。

古着でワクチンというのは、着なくなった服やカバン、靴などを大きな紙の袋に詰めて送ると困っている子供達のポリオワクチンになるというシステム。

大きな衣装ケースに衣替えや洗濯の際、避けては放り込み、もうあらかた送るものは用意できていた。夏休みの宿題もそうだったが、私は8割がた終わらせるともうそこで安心して手を止める。小学生の時も中学高校も、いっつも9月直前になって慌ててドタバタと残りの2割に手をつけるのだ。そしていつもギリギリセーフで終わらせる。

これも同じで、ほぼ内容物が用意できたころからもう、すっかり完了したような安心感で放置していたが、年内中になんとかせねばと最終的な梱包に取り掛かることにした。

袋につめてしまってからでは移動が大変だから玄関で詰めるのがコツだと書いてある。

確かに。

プラスチックのキャスター付きのケースをガタンガタンと階段からおろす。

実はこれがおっくうでいつまでも手をつけていなかった。週末、男性陣にやってもらおうと思いつつ、忘れ、まあ来週でいいかとここまできてしまった。

やってみるとそれほど大変な作業ではなかった。

さて。いよいよ詰める。

やはり、30リットルの袋はそう簡単に埋まらない。この線まで入りますとあるところまであと5センチほど残っている。

残ったままでもべつに構わないのだが、この際、処分できるものは他になかったかとあれこれ探す。いつか履くかもしれないととっておいた自分のスニーカーと息子が幼稚園のころかぶっていたキャップ、夫のもうやらないゴルフのキャップも入れる。

まだなにかないか。

どうせなら向こうの人たちが喜ぶものもいれてあげたい。

白いユニクロのセータ。息子が大学生一年の頃、私が買った。しかし本人の好みでなかったようで数回、袖を通しただけだった。夫が着るかと彼のタンスに入れておいたが、やはり着ない。それじゃあ私がと今度は自分のところにしまっておいたが、重くてやはり、着ていない。

まだまだ新品のようにしっかりしている。

ポロポロくたくたの着古したものばかりより、お、これ、いいじゃん、と遠くの誰かがニンマリしてくれたらいいなあ。

もう一度中身を確認する。

襟の伸び切った夫のポロシャツ、袖口の伸び切った夫のフリース。すまん。

と、亡き父のセーターがでてきた。そうだ。これも入れたんだ。

このセーターはよく覚えている。これを着て2才だった息子と庭で遊んでいたのを思い出す。

・・・。

やっぱりこれは・・。

袋に入れず、自分で着てみた。似合うわけでもなかったが、手元に残した。

汚れてもいい作業服にしよう。

ガムテープで口を閉じ、宅配業者に依頼する。明日の午前、集荷に来てくれる。

成し遂げた。

これで年を越せる。

晩、飲み会の夫と残業の息子宛に、先に休むとラインを送り寝ていると夜中に起こされた。

「トンさんトンさん、玄関にあるあのおっきな袋、なに捨てたの」

「ああ、あれ、古着でワクチンっていって困っている子供達のワクチンになるの」

「捨てちゃうの」

「捨てるんじゃない」

寝ていたところを起こされ機嫌の悪い私は説明が雑。

「あのなか、僕の服もはいってるの?」

「はいってませんっ」

神様、お許しください。私は嘘をつきました。

夫よ、許せ。もうあの袖の伸びた二着は、海を渡ることになったのだよ。