寒い日

昨日、東京は、東京も、だろうか、急に気温が下がった。

ここのところ外出が続いていたためか朝、目覚めたとき、「あ、今日はおとなしくしてよ」と思った。こんな日はとにかく存在するだけでよしとする。多くを求めず、明日へとつなぐことだけを考え過ごすのだ。つつがなく、1日を終えればいいことにしよう。

着ても着ても着ても寒い。

ユニクロのコートインナーにするような薄いダウンのロングベストの上に羽毛のマフラーをして、毛布を巻いてもゾクゾクする。

ひたすらじっと。ひたすらじっと。抗うことなくじっとやり過ごす。

コンサートのDVDを観る。弱気になっているからかやたら感動し、一人、パソコン画面の前で拍手する。

この人はやっぱり天才だ。ふだんおちゃらけているのに、テレビにでて、コンサートもやって、作曲も、ラジオも、舞台も、YouTube、それでこの演奏。このコンサートにむけてアレンジされた馴染みの曲のメドレーがこれでもかと続く。

新幹線で日本中を飛び回りながらいったいいつ、練習をして技術を維持し、作曲などをしているのだろう。移動中は読書をすると言っていた。この人は寝ているんだろうか。

己のパワーとつい比較して、シュンとなる。

弱っている時というのは発想がおかしい。日本を代表するピアニストはそもそも幼少の厳しい訓練からして違う。きっとたくさんのものを犠牲にしての今なのだ。

それを暗くなるまで缶蹴りをして欽ドンを観てゲラゲラわらっていた自分と照らし合わせるあたり、どうかしている。

この人は、希望を与えるための光として生まれてきたんだなあ。

結局1日調子は戻らない。それでも頭が軽くなり、気持ちも晴れてきた。

熱い風呂につかる。

よかった。じっと過ごして。だいぶ楽になった。朝のあの鬱々とした気分はもうない。

今なら、だれにでも優しくできそう。

わたしの優しさなんて体調と比例する程度のものなんだな。

そこに夫がめすらしく早く帰ってきた。

「ただいまぁ」

声が沈んでいる。

ボーナスが昨年の半分以下だったという。

「もう、おじさんだからさ」

「あらら。ま、でもでるだけありがたい。ありがとう」

それでも元気がなかった。

1日体力を温存していてよかった。落ち込む夫の気持ちも受け止められる。

「あの事故でさ、だれかを傷つけてその人の一生をお詫びすることになることになっていたとしたら、こんなこと、どうってことないよ。」

「うん」

「働くところがあって、月々いただけて、仲のいい家族がいて、住む家があって、いったいこれ以上なにが欲しいんだ。十分だよ」

「そだな」

そうだよ。

生きているってありがたい。