妙な夢を見た。
もう何年も夢を見ていなかった。見ているのかもしれないが、覚えていない。
だから夢を見た、と目が覚めてからはっきり思い出すのは本当に久しぶりのことだった。
その中に母がいた。
ラジオ体操でよく見かけるおばさま方がバス旅行から帰ってきたところらしい。
いつもは離れているそれぞれのグループがみんな集まって仲良く一つの団体として行動していて夢の中の私は「へえ」と意外に思っている。
私は母と二人で歩いていた。散歩なのか、我々は日常の延長で偶然通りかかったのだ。
その中の、たまに公園で会話をする顔見知りの一人が、私に気がつき近寄ってきた。
めんどくさいな、と思いつつ、挨拶をしようと待ち構えているとその人は私を通過して母のところに行く。
「あらあ。どうしたの」
「ええ、この近所なの。どうしたの、ご旅行?」
「そうなのヨォ、みんなラジオ体操の仲間」
どうやら体操教室のお仲間でもあるようだった。
その会話を終え戻ってきた母も、私がラジオ体操に通っているのを知っているので同じことを考えていたようで
「めんどくさいことになった、逃げよう」
と二人、そそくさとその場を去るのだった。
あれはなんの暗示だろう。
母も私がラジオ体操で顔を合わせている、おばさま、おばあさま達と同じなんだということか。
母ともし、毎朝公園で出会うような関係だったらきっと可愛いらしい人だなあと思うだろう。
誰とでも陽気に喋り、でしゃばらず、ニコニコしていて、おしゃれで、ちょっと自信なさげで引っ込み思案そうにしていて、でも口を開くと時々とんでもない辛口のジョークを言う。その辛口加減に自覚はなく、本人はケロッとしている。そんな人。
可愛いおばあちゃんだなあ。と私は眺めるだろう。
母親として近く関われば、娘として関われば。
傷つき傷つけあった。
近頃の私たちは互いに独身社会人の子供を持つ親同士のような付き合い方になってきた。
相変わらず、姉命の母。ブラック企業だと残業続きの娘の健康を庇い、家事をする。
それを支えたい。
近所に住む人のように、時々差し入れを持っていき、愚痴や近況報告や心配事の話し相手をする。
私も見て、なんて思わなくなった。
私も見て。こうして文字にしてみるとなんとも幼稚だった。
やっと。やっとお尻から殻が取れた。卵の殻が。
そんな関係になったことを寂しく思わない。
母と姉と私。
いいところに落ち着いたのだ。