息子は大真面目に言った

ヘアアイロンを買った。

美容院で最後の仕上げにやってくれたら、たちまち毛先がクルンとなった。

「大型電気店でもネットでも買えるよ」

帰宅してすぐ購入して手元に届く。

いそいそ箱からだして電源につなぐ。あっというまに熱くなる。大学時代に使っていたのとぜんぜんスピードが違う。

店でやってもらったあの髪型がこれからは毎日自分でできるのだ。

もう私は今日から手入れの行き届いた素敵なヘアスタイルの女になるのだ。

スーパーにいくときだってお洒落しちゃう。

さっそく前髪を挟み、手前に巻き込んで放す。

あれ。おかしい。うまういかない。店ではもっとふわっと大きく丸みがでたのに。

毛先にだけ、へんな癖がついたように曲がっている。

そう、曲がっているのだ。

おかしいなぁ。

つかんだ毛の量が多かったのかな。

今度は少なめに。

するんと、挟んだ毛がアイロンから外れてしまってうまくできない。

不器用さというのはこういうのにも発揮されるんだなあ。

だんだんムキになって何度もやり直しているうちにアイロンの先がおでこについた。

はじめは恐る恐る火傷をしないように使っていたのに、あんまりうまくいかないのでそっちに意識がいって取り扱いへの注意が薄れ、油断した。

あちっ。

ちょっと痛い。

もう今日はここまで。

妙なひんまがった前髪のままアイロンをしまった。

ヒリヒリするおでこは赤くなった。水脹れまではいかなかったが擦り傷のような痕がついた。

やっちゃった。

「あなた、どうしたの、そのおでこ」

夕方、母のところに惣菜を持って行くと言われた。

本人はすっかり忘れていたが、赤い傷跡は目立つ。

ヘアアイロンくっつけちゃった」

「バカじゃないの、やっぱりバカだわ、本当にバカですねぇ、しっかりしてください」

へえへえと家に帰る。

夜、息子が帰ってきた。

「おかえり」

「ただいま。どうしたっ、そのおでこ、なにやった」

「あ、ヘアアイロンで」

息子は眉間に皺をよせる。

「消えるのか。跡が残ったらどうする」

「大丈夫よ、残ったら私のマークってことで」

へへへと笑うが、息子の眉間に皺はまだ寄っている。

「ばあちゃんが見たら大変だぞ。」

「もう見つかった」

「なんて言ってた」

「バカですねえって」

緩んでいた眉間がまたきゅっとなった。

「バカじゃないぞ」

「いいのいいの、だいじょうぶ、バカだから」

ヘラヘラ返事をすると、もう一度言う。

「ばかじゃないそ。諦めちゃだめだ。バカじゃないからな」

えっと・・・そう真剣に慰められると・・・。