うちのお父様

「母さん、親父、今週末、またいないってさ」

息子が面白いことになったぞと、嬉々として告げ口にきた。

夫が週末、家にいることはまず、ない。もうそんなものだと思っている。嫌でもないが、いなくて嬉しいとまでは至っていない。

なにを今更。そうに決まっとろうが。

「しかも午前と午後で違う試験を申し込んでハシゴだってさ。なんにも勉強している様子もないが、どういうことだ」

私が不機嫌になって夫に文句を言うようけしかける。母親が我慢をしていると思っているようで、ときどき父親のマイペースに本気で怒る。

「ええっ。まさかっ!」

本心とは裏腹に驚いてみせた。

大仰に反応すると、おもしろいことになってきたぞと息子は張り切る。

「いや、そのまさかだ。今週も、家をすっぽかし、勉強もなにもしていない、いかがわしい試験を受けに行くんだ。自分だけのために」

「試験勉強してるもーん」

遠くで苦笑いをする議題の男。

私は真面目な顔をして息子に言う。

「そんなこと、あるわけないわ。あなたはまだお父様がどういう人間なのかわかっていない。お父様がそんなこと、なさるわけがない。あの、家庭をなにより大事に思っていらっしゃる方が。きっとそれはあなたの勘違いよ。今、まさに、どこに連れて行ってやろうかなあと、銀座のお寿司屋さんを検索して、映画のチケットを購入したり、準備なさっているところなのよ」

ニッターと息子が笑う。

「ああ、そうか、俺の勘違いか。そうだよな。親父に限ってそんなことあるはずもないか。」

「そうよ、あなた、失礼よ、お父様に」

「おれもまだまだ未熟だな。申し訳ない、すまなかった。間違えた」

議題の男、遠くの方で叫ぶ。

「ひーん、ごめんなさーい」

ふん。