気の抜けた二人

昨日の結婚記念日、確かに夫は早く帰ってきた。

5時半に「これから帰ります」とLINEが入る。

張り切ってんなあ。

と思いつつ、ちょっと嬉しい。面倒だけど、気持ちが弾む。

ところが帰宅するなり夫は部屋に閉じこもり、先日のテストの自己採点を始める。

おいおいおい。

張り切ってんじゃないのかよ。

しかし、そんなこと気にもとめていない風を装い風呂に入った。

あの調子だとしばらく降りてこない。こっちだって。のんびり長湯してやろうとiPadを持ち込む。

けれど心臓がバクバクして早々に引き上げる。

夫はリビングでテレビを見ていた。

あ、いる。また少し浮上する。さあご飯にしましょう。

用意していたシチューと鶏肉、ナスのグラタンを並べる。そして最後に夫の好物の白いふわふわのパンをカゴに入れて出した。

いただきます。

召し上がれ。

テレビを観ながら食べる。

「おいしい。ありがとう」

見るとパンを食べている。

「本当おいし。これ大好き」

パンを食べている。二つ目。

「シチューも食べてね」

「あ、うん、もちろん」

そういってパクリ。パンを食べる。

ふわふわのパン3こ、デニッシュのスティックを3本。

「あのさ、おかずも食べてよ」

「食べるよ」

しかしお腹が膨れて手が伸びない。

最終的に苦しそうに無理やり平らげていた。

面白くない。

なんだか思っていたのと違う。

わぁ、すごい。

いやいや、手抜きなんだよ。

僕の好きなものばっかり。

量が多かったら残してね。

おいしーい。

あ、パンもあるよ。

あ、これ、僕の好きなのだ。

そうだよ。

・・・のはずが。

まさかのパン先行、からの満腹。

気がつくと、目の前でうたた寝を始めた。

・・・。

黙ってチャンネルを変える。

するとその変化に反応して目を覚ます。

「あ、ごめんごめん」

数分するとまた、寝てる。

「寝ないでよー」

「あ、ごめんごめん、寝てないよ」

「寝てたよ」

「起きた、今、起きた」

「頼んで起きててもらっても嬉しくないっ」

「ごめんごめんごめん」

と、また目を閉じた。

立ち上がって食器を洗う。

こっくりこっくりし始めた。

テスト勉強と仕事とで疲れているのだ。今日も早く帰ってこようときっとやりくりしたのだ。

この時刻に帰ってきたことが、彼の誠意なのだ。

冷静になってみれば手抜き料理を並べておきながら、感動して大喜びして見せろというのも相当図々しい。

新婚の頃はもっと丁寧に丁寧に喜ばせようとあれこれしたじゃないか。

あっちもあっちならこっちもこっち。

31年目の油断と甘えと安らぎ。

これこそが平和だよなと、妻は夫を置き去りにして先に寝た。