奇跡の重なり

歩ける歩ける歩ける〜。

歩ける。うれしい。しんどさもなく、足が前に自然とでる。それがうれしい。

ああ、身体が動くってありがたいんだった。忘れていた。

入院していた時は椅子に座れたと喜び、立てたと喜び、歩行気をつけて歩く範囲が広がったことが大きな喜びで、それが外れた開放感、それから階段をのぼれた、一人でエレベーターにのって一階の本屋まで行けるようになると毎日、一冊の文庫本を選ぶのが楽しみになった。

そうだった。

知らず知らず、いろんなことに慣れて、当たり前の上にあれこれ考え感じていたけれど、ここの基本を忘れつつあった。

忘れていないつもりでいたけれど、やっぱり忘れていたのだ。

冷蔵庫には昨日、ヘロヘロになりながら作った惣菜がまるごとラップをされて戻っている。

一瞬「う」となるが、思うように動く体のほうがうれしい。

神様がもし、このダメージと引き換えに回復させてくれたのだとしたら、もうもう、こんなの、どうってことない。

そうか。私がチョイチョイひっかかっていたあれこれも、この程度のことだという、サインか。今回のこの不調は、それを思い出しなさいよというサインだったのかもしれない。

太陽がでてきた。

命の心配もない。

家族もみんな平常運転。

あたりまえのような奇跡の上にくりかえされる日常。

こんどこそ。こんどこそ。肝に銘じよう。