記念日

1日なにもせず。本を読んではうつらうつら。そして好きな音楽を聴いて、すきなラジオを聴く。リビングに陽があたり、ほどよいあたたかさが足元をあっためる。

やっぱりわたしはなにもしないのが好き。

何もする必要のない、追い立てられない時間が好きだ。

いい1日。

午後、母がやってきた。お友達のオカリナのリサイタルに呼ばれたそうでそのときに着ていく服装をみてくれという。

パッと見た感じ、地味だったのでそう言った。

「あら、そう。やっぱり。あんまり目立っちゃ悪いかと思って」

悪いわね、着替えてくるからちょっと待っててと一旦戻り、着替えてきた。

「うん。そっちのほうがいいよ。」

「同窓会のときもこれでいいかしら」

「もちろんいいけど、同窓会はもっとくだけていいんじゃないの」

いいのよ。あんまりオシャレしてきたって思われるのも嫌だから。

それから友達が恋をしているのが信じられないと話す。

「色ボケしちゃってるのよ。老害よ。みっともない」

「べつに80過ぎてたって恋する人はするよ。恋したら老害なんてことないよ」

でも。と不満げである。

「わたしはもういい。お父さんに悪いもの」

「そう言う人もいるけどそうじゃない人もいるんだよ」

でもあの人はやっぱり変だと納得しない。

そこから話はあっちに転がりこっちに転がる。

いつしか姉の話になった。忙しそうで体が心配だと言う。

「私が若かったから、あの人が子供の時に甘えてしまってあの人に我慢をさせたから。今、申し訳なかったと思って、おさんドンしてるのよ。せめて今。罪滅ぼしだわ」

と笑う。

ん?一瞬ちくんとなにかがひっかかった。会話は続く。

あの人には苦労をさせちゃった。長女だからつい。

ん。ん、ん。

母はひとしきり話して機嫌良く帰って行った。

続きの海外ドラマを観るのだかなにか、さっきの違和感がひっかかって筋が入ってこない。

ああ、そうか。

私は?私にはなにも感じてないの?ってことか。

悲しみ。失望。ちいさな怒り。寂しさ。脱力。

姉を不安定にしたというのなら、その不安定な姉は私を構うことで自分のバランスをとった。

母と姉の不安定の解消に、おもしろおかしく、そして悪気なく、ちょっかい出されて翻弄された次女も結構な負荷がかかってたんだ。

笑ってごまかして、家の中の空気を読んで道化もしたけど。

わたしだって辛かったんだ!!

・・・ってことか。

まーだ、やっぱりしがみついて、どこかで期待していたんだ。

何を期待してたのか。

なにを求めていたのか。

お姉さんと同じように対等に見て欲しかったのか。

私に謝って欲しかったのか。

 

自分の駄々っ子のような幼さに直面して苦笑してしまう。

もう母を解放してやろう。

母は母なりにがんばったのだ。下手なところもあったけど、一生懸命生きてきたのだ。

私だって息子の心にきっとなにかしら黒い点を落としている。

もう解放しよう。

 

これまでありがとう。

育ててくれてありがとう。

もうあなたに求めない。あなたの言葉にグラグラしない。

無邪気に言ってくる揶揄いのセリフも、真実を言われているかのように狼狽えない。

私は私が思ったようにいく。自分の感じることを真実だとする。

だから、もう、自由にしていい。母は母の感じるままでいいんだ。

愛してる。愛してるけど、もう、卒業する。

ありがとう。

心理的に近過ぎたんだ。お互いに。

もう、いいんだ。

これまで本当にありがとう。

 

のんびり呑気な1日のはずが、おもいがけず、メモリアルな日になった。