馬鹿者同士

また怒ってしまった。

夫がまたどうでもいい小嘘をついた。どうでもいいところなのだからこっちもどうでもよく流せばいいのに、腹が立つ。

しれっと嘘をつくことに抵抗のないところが嫌なのだ。

「トンさんごめんヨォ」

すぐ見破られ、あっさりヘラヘラ笑う。

「ごめーん」

「こっちくんな。謝れば済むと思ってごめんと言うな。ムカムカするっ。声出すな。」

「トンさーん、ごめーん」

「だから声出すな!黙って!」

「トンさーん」

「声出すなっ!」

ああ。せっかく穏やかでいい1日だったのに。

こんなふうに怒鳴る自分がもっとやだ。

怒るのは、期待をするから。一切の期待を捨ててしまえば残るのは感謝しかないはずだ。

そう。なんだかんだ言っても、毎日仕事して、そのことに疑問も不満も言わない。

私の身体が虚弱でもそのことに嫌味も言わない。

給料もちゃんと入れてくれる。

そして健康。

些細な子供がつくような嘘くらい、どうして笑って許してやれないんだ。小嘘を許さない私こそ、小物の妻じゃないか。

全て豪快に「まったくしょうがないなあ」と腹の底から笑える女でありたい。

期待をするから落胆するのだ。

そうか。私は自分にも過大な期待をしている。おおらかで気立てのいい女性であれと期待する。

あっちのありのままを許すならこっちのありのままをまず全部許してしまおう。

どうでもいいことで嘘をついてヘラヘラ謝ってくる夫。

どうでもいいのに、真っ赤になって腹を立てる妻。

この馬鹿夫婦。

きっとたかいたかいところから見ている神様たちは

「あいつら、またやっとる」と、おおらかに笑って許してくださっているのだろう。

ふふ。馬鹿夫婦。