ま、いっか

あとからじわじわときてる。

結構、気にしてたんだ、私。

母に言われた。

「潤いのない夫婦ねっ、あなたたちは」

お墓参りに行くのを誘ったが行かないと言ったのは、せっかくみんなで車に乗るのだから久しぶりにどこか寄ってドライブを楽しんでくればいいと遠慮したのだそうだ。

それなのに夫が先に帰宅した。私は渋谷で下車し、電車で帰宅。

夫の車に酔ったのだ。もう一つはバスが近くに寄ってきたと荒い運転をし、彼が癇癪を起こしたから。

「ちょっと黙って!今このバスがさっ!」

その剣幕が荒々しくて私は黙った。怖くて黙ったのではない。ムッとして黙った。抗議の沈黙。

そんな車内の空気とさっきからのカックンブレーキに酔っていた気持ち悪さとで、渋谷の交差点で静かに

「あ、ここでいい。降ろして」

と言ったのだ。

先ほどからの沈黙が妻の逆鱗に触れたのだとわかっている夫は

「え。あぁ。ちょっと待って」

おとなしく車を寄せた。

そして別れ、私は餃子を買って帰ったのだった。

母には夫の荒れた運転のことは言わなかった。このすぐカッとする癖で事故を起こすんだなと思ったからだ。鈍臭い私がそう思うくらいだから鋭い母はそこに話を結びつけるだろう。また言われなくてもいいことを聞きたくない。

渋谷で車に酔ったから私は降りて、電車で帰ってきた。嘘ではない。

そのことを言うのだった。

せっかく遠慮して気を遣ってあげたのに。人の気も知らないで。がっかりだわ。

そして

ほんと、潤いのない夫婦ねっ、あなたたちは。

瞬間「ずきっ」と痛みを感じたが

「だって車に酔っちゃってさ。本当はあのあと一緒に神社に寄って事故のこと怪我がなくてありがとうございますってのと、これからは気をつけますってお参りしようねって言ってたんだけどさ」

と返した。

これも嘘ではなかった。本当にそのつもりでいたところに荒っぽい運転をして荒っぽい言葉を浴びせてきたものだから車を降りた。我慢をしたくなかったのだ。

ヘラヘラ笑って大人の振る舞いをして、おおらかな娘をそこでやって帰ってきたが、二日経った今頃、ちくちく疼く。

夫婦の形を否定されたような。

と言うことはこれまでの自分の生きてきた道のりを失敗してると言われているような。

あんたんとこは不完全ですから!と太鼓判を押されてしまったような。

ようなようなような、気がしてしまって。なんというか、めげる。

私としてはうちの夫婦は結構いい味出していると思う。

どっちもヘンテコりんの変わり者同士で、記念日に食事に行くとか、旅行に行くとか、ない。

時々そう言うのが欲しくなる時もある。

もっと私の気持ちを察しろよと苛立つ時もある。

けれどその苛立ちを私は口にすることができる。

そっちがそっちならこっちだって考えがある、っとやってやる。

すると夫はゲラゲラ笑うのだ。

もしくは本気でシュンとする。いや、してみせる。

それで彼が私の思い通りになるかといえばそうでもないし、全く響いていないようにも思う。

しかし、それでいい。もしこれで私の気持ちを先回りして気を遣われたらわたしも気を抜けない。

気を遣う同士で私は息苦しくなるだろう。

つい、可愛らしい奥さんを演じ続けて怒りも苛立ちも飲み込むだろう。

だから、おならをして、カッとなって、永遠に合格しないテストを受けに行く勝手な夫がちょうどいい。

そっちがそっちならこっちだって。

そう闘志が湧く相手の方が私にはいい。

こうやって書いていたら夫にモヤモヤしている部分がスッキリ整理された。

母の強すぎる愛情も、ときに役に立つ。