夜中、1時半に大音量の何やら番組だろうか、音楽とざわめきのような音声で起こされた。
「・・・そこで携帯の小さな画面、観ないように・・」
ボソリと夫に向かって呟く。
するとガバッと起き上がり
「早く起きちゃった、ちょっと早く目が覚めちゃったけど、行ってくるね」
と布団を飛び出し降りていった。
行ってくるねって・・まるで自分が闘いに行く勇者のように興奮している。
私が高熱を出し「熱が出た」と言ってもテレビの前から振り向いて「寝てなさい」と、さも気の毒そうに眉間にシワを寄せ、そしてまたくるりと画面に戻った、息子が幼児だった頃。あのときも画面は大学ラグビーだった。恨みがましくはっきり鮮明に思い出せる。
甘ったれの私は孤独を感じて寂しかった。
あの可愛らしかった私はどこいった。
しかしこれほど夢中になれるのは彼の強みだよなあ。
周囲の諸々のことからパッとワープしてすっかり自分の魂が燃えるところに飛んで行ける。昨夜はドラマの最終回だといって振り返りの特集番組から釘付けだった。彼はきっとテレビ画面を見ながら並行して他のことを考えたりしない。
子供の頃の私がそうだったように、彼の中にはあのキラキラした部分がそのままつるんと変形せず残っている。
試合は確か早朝4時からのはず。今から何を観るんだろう。
この時間から起き出して日本戦の試合終了まで見たらまた寝るのだ。夕方まで。
明日もまた使えないな。
遠い昔、幼児を抱え熱をだし、さめざめと泣いていた妻は「ふん」とまた布団に潜るのだった。