「何で歩いてるの?」
朝の散歩でいつも会うメガネの女の子がそう聞いてきた。
毎朝彼女は走っている。お父さんと妹と三人で。今日は妹とお父さんは自転車で先を行った。ちょっと運動が好きじゃなさそうなその子はその後ろを今日も一人、黙々と走る。
黙ってじっと近づいてきて私の顔を下からニヤッと覗き込む。
「あ、おはよう」
そう言ってもニヤニヤしているだけで初めは喋らず、足を緩め、隣をゆっくり走るのだ。
「ねえ何してるの?」
今日はこれを聞こうと決めていたかのように、いきなりそう言い出した。
「歩いてるの」
「何で歩いてるの」
え。一瞬、詰まる。それに気付かれないようにすぐ答えた。
「運動になるから」
「ふーん、何で走らないの」
そりゃそうだよねぇ。
「走れないんだ」
「走れないの」
「そう。だからすごいなって思うよ。毎日走ってさ」
そう言うとまた少し照れたような顔でニッと目を細めて走って行った。
「じゃあ、またね、またここに来るんだよ」
「うん、またね」
そう言ったくせに彼女は昨日、来なかった。
ああ。
9月1日。
新学期が始まったのか。
そういえば、また明日って言ってなかった。
またね。またここに来るんだよ。私は毎日来れなくなるけど、ちゃんとここに来るんだよ。
そう言う意味だったのか。