夜中、起こされる。
何か食べるものないかと息子が突っ立っている。
仕事を終えてしばらく部屋でスマホを見ていた。夜の11時、さてお腹が空いた、食べるかと降りていくと食事がない。夫が一人、テーブルについて息子の夕飯を食べていた。
夫のものは食べるか食べないかわからないから冷蔵庫に入れておいた。そう言ってあったのだが、お盆に乗って出ていた方を食べてしまったのだった。
息子の方を大盛りにしていたのに。
しかし、息子も自分でなんとかできるだろう。冷凍庫でも床下でも勝手に探してくれていい。小腹が空いたらこれ食べてねとカップラーメンのありかも教えてある。
食事は待つもの。この姿勢、染み付いている。当たり前だ。私が料理をちゃんと教えていない。そしてやろうとしないのもまあいいか。そのうち一人になればなんとかするだろうと、放っておいた。
12時過ぎに起こされて頭が回らないが、夫用に用意してあった方に少し肉と冷凍餃子をたして出してやった。
「なんかお茶碗とお箸が違うと思ったんだよねぇ」
夫は自分のやらかしたことがおかしくてゲラゲラ笑う。
「笑ってんじゃねえ、人の飯、食いやがって、普段家で食べないくせにたまに帰ってきたかと思えば人の飯食いやがって」
もう、漫画である。
こんな時、私は感情を一旦棚上げにする。目の前のことだけに対応して外界と関わらない。
食べるものを差し出し、また寝るのだ。黙ってそれのみに集中する。
その様子は側から見ると怒りに見えるようで、周囲は次第におとなしくなる。それほど怒ってるわけでもないんだがな。
ああめんどくさい、そんなの説明しなくていいや、さっさと上に行こう。
やるだけのことをして、階段を上がっていく。息子にも夫にも何か声をかけられたが、無言で寝室に戻った。
寝よう、寝るんだ。
寝たようだった。目が覚めると朝の5時。寝不足感もなく、すっきりとしたいつもの目覚めだった。
一階に降りていく。階段から灯りがついているのがわかった。嫌な予感は的中。
息子は食べながら寝ていた。私が起こされて作ったものは半分、皿の上に残っていた。
あれじゃ足りないだろうと増量したが、夜中の12時なんだから、あの少ないままでよかったのだ。
夫が息子用に用意しておいたボリュームのある方を食べたものだから、きっと私はムキになったのだ。
息子可愛さに、夫への腹いせのような感情があったのだ。
無表情で淡々とやるだけのことをやり、また寝室に戻ったつもりでいたが、あの数分の間に私はそんな感情の中にいたのだろう。
そりゃ、こうなるわな。
「ほら、起きて、朝だよ」
残ったものはまた冷蔵庫に戻る。
「ごめんよ、寝ちゃって」
決まり悪そうに言う。いろんな感情が渦巻いているのに、怒るのもちょっと違う気がして、とりあえず、感情をオフにする。
黙々と食器を片付けながら「お盆、拭いてしまって、缶、捨てて」と言ったが、これがまた不気味な怒りを感じさせたようで「ごめん」ともう一回言わせてしまった。それから「今朝もラジオ体操いくの」となんとなく私の機嫌を伺う。
怒ってないのに。
怒っているのかな。私。
単に物事の展開が自分の意図した通りにいかないことへの腹立たしさなんだけどな。
・・・あ、それを怒りというのか。
もっと愛想のある返事をしてやればよかったかなとちょっと思う。
ま、いっか。みんな大人なんだし。
そういうことって、あるよ。
よいよい。
私の中の私が私の見方をしてくれた。
今朝は作らなーい。