また明日

ラジオ体操をやっている公園の中に小さなジョギングコースがある。メインの本格的なコースはランナー専用で、そこは暗黙の了解で歩行者は入ってはいけない。その脇にある小さなコース。ベンチもあり、犬の散歩の人も自転車もおじいさんも、ベビーカーを押す人もそしてジョギングの人もそこを歩いたり走ったり、隅の一角ではヨガをやっていたりする。

体操が終わると、大勢の波から外れてその道に入り、ブラブラ歩きながら公園を抜けて帰る。

夏休みが始まった頃、そこを走る女の子とお父さんがいた。

小学低学年くらい。メガネをかけたショートカットのその子は運動が苦手なんだなという走り方で、首を傾げ、トロトロ歩くような走るような、しんどそうな風で走る。それは子供の頃の自分と全く同じフォームななのでわかるのだ。体を丈夫にするようにと言われて走っているのかもしれない。体育が苦手なのかもしれない。

毎日父親が少し先を走り、その後ろをついていく。自分からやりたいと始めたのか、やれと言われてやっているのか、夏休みの宿題なのか、女の子は無表情でタランタラン走る。

やる気があるようには見えず、かといって投げやりというのでもない。ただ、やんないとダメだからと半ば諦めた、という風に、それでもちゃんと毎日走っている。

好きではないのに続けているのだった。

ある時、そこにもっと小さな女の子が加わった。その子は軽々と細い体を弾ませて、走るのが楽しくて仕方ないと、前に後ろに行ったり来たりしながらくるくるくるくる、駆け回る。

妹だろうか。幼稚園か未就園児か、父親はその子と並び、ずっと先の方を走るようになった。毎日、毎日、二人は先を行くのをあとからメガネの女の子は首を傾げて走る。

前ではアイスを食べたり、ジュースを飲んだりはしゃぐのが見えるが、それにも無反応で表情を変えず、淡々と走るのだった。

あの子は今、何を感じているのだろう。すべてを達観しているようにも見え、またすべてをあきらめているようにも見える。

 

昨日、体操が終わり、イヤホンでラジオを聴きながら雲を見あげ、歩いていた。

母とのことを考えていた。

ふと、視線を感じる。

視線を落とすと、彼女が、メガネの少女が私をじっと見つめながらすぐ横を走っている。並走といってもいいくらいの距離である。

じっと見ている。

思わず、イヤホンを外した。

「おはよう」

「おはよう」

まっすぐハキハキした声だった。すんなりかえってきたのが少し意外だった。

「毎日、えらいね、走ってて」

お父さんたちは先に行くのにねぇとは、言わなかった。

「見てたの」

「見てたよ。知ってるよ。毎日頑張ってるの」

「ふーん」

表情が、変わった。笑うんだ。この子。

「じゃあね、またね」

「うん、またねー」

歩き出し、イヤホンを戻そうとするところに彼女が叫んだ。

「明日も来るー?」

「来るよ」

「じゃあ、また明日ね、バイバーイ」

「うん、また明日、バイバイ」

ふたり、大きく手を振って別れた。

ほんの数秒。

バイバイ、また明日。

何年ぶりに使ったろう、このフレーズ。

友達ができた。