再構築

夕飯の支度を早めに済ませてさあ、久しぶりに海外ドラマ三昧するぞと思っていたところに姉がやってきた。

「元気?」

「元気だよ」

彼女がこういうとき、ちょっとめんどくさい。用事があればいきなり用件をちょっと上から目線で強い口調で言ってくるが、ただなんとなくやってきた時、これはややこしい。

姉のことはすごく好きだ。だが、ちょっと合わない。

興味を持つものが全く違う。クラスにいたらきっと互いに近寄らないだろう。

母が出かけていると、たまにこうやってなんとなく来て、なんとなくいる。

息子が幼稚園に上がる前くらいまでは誘われるとどこにでもついて行き、お茶をしたり買い物をしたりしていた。しかしそれもちょっと無理して、楽しんでいるフリをしていた。

離婚して戻ってきた姉の隣で暮らす。母は妹がすぐそばで幸せそうな家庭を持っているのを見るのは辛かろう、かわいそうだと私にこぼす。

つい、どこか遠慮する。

会話も選んでしまう。

幸せそうにするのは自分の家の中だけでやって。

そう一度注意されたことがあった。一緒に食事をした翌日だった。

それが頭の隅にあって、ねえねえ聞いてよと、姉が話してくることをうんうんと聞くに徹するようになった。

多分、私自身、自我が強かったんだろう。自分を押し殺しているような不完全燃焼感。そしてそのことを知られてはいけないという重荷。でも誰かにわかってもらいたい。

そうやって彼女に合わせていることに疲れ、あなたも私のおかげで家事から解放させてもらえていいでしょと、弾んでいる姉を見ていると、どこか面白くないというか、いや、これが自分の任務だと諦めているというか。

息子の中学受験あたりからじわじわ忙しくなった。それでも姉は私を誘い、私も時間を合わせてお供した。

息子が中学に上がった春、連休直前、倒れた。

生きるか死ぬかをやって、四ヶ月の入院、鬱となってそれは途絶えた。

長い長いブランクがあって、最近また、彼女は時々やってくる。

「あのさ、部屋掃除するんだけどサジェスチョンしてくれない」

掃除が苦手で、よく私にバイト代を払うから手伝ってと頼んだ。お金をもらうのは嫌だとある時言った。それ以来、自分一人だとつい気が散って他のことを初めてしまうから監視してて欲しいに変わった。

「いいけど、私これからお昼なの。食べたら行くよ。」

「ああ、私もこれからだから。一時間後あたりに」

以前だったらここでもう変なスイッチが入り、大急ぎで食べて駆けつけた。全部の自分を全力で差し出した。

お盆にトーストとサラダとチーズとコーヒーを乗せて窓際の机に向かう。そこでiPadで海外ドラマを一本見ながら食事をゆったり楽しみ、食器を洗ってから、iPadを手に、彼女の部屋に向かう。時計を見たら一時間後と約束したのが一時間半、経っていた。

30分は自分を優先させた分だ。まったりドラマを楽しむ午後を諦めなかった。

行くとやっぱり掃除はしていなかった。

コミックを読んでいる。

「ほれほれ、見ててあげるからおやり」

「おう」

ベッドにどっかり腰掛け、ソリティアを始める。姉は会社のことやら好きなアーティストのことやらを話しながら洋服を畳み、床に散乱したものを拾い、片付ける。

それに相槌を打ちながらソリィティア。ソリティアがいい具合に姉と私の間をつなぐ。

すぐ帰ろうと思っていたのに、なんだかんだと気がついたら夕方5時だった。

「私、これからジム、予約してるの」

「うん、私も帰る。だいぶきれいになったじゃん」

「お、ありがと」

「お疲れさん」

新たないい感じ。ちぐはぐな私たちの無理のない、いい関係。

きっと私がいい子ちゃんでいようと思わなくなったから。

嘘つきじゃなくなったから。

部屋もスッキリ。私もスッキリ。

いい午後だった。