ひとり相撲

金曜日は生協の日。

母のところに牛乳と米を持っていく。

本当は行きたくないなあと思っていたようで、夫に届けてよと頼もうかとちらりと浮かぶ。しかし、それをやるとこの前の交通事故のことを母は突っ込み、夫は言わなくてもいい小さな嘘をついて自己防衛するだろう。

めんどくせえ。

行きたくないのは調子が今ひとつで、あっちのフォローが満足にできそうにないから。

しんどいからやらないとしたところでモヤモヤ。モヤモヤが嫌でええいとエンジン蒸せばガス欠になって自己嫌悪、その葛藤に揺れる。自分がこんなにしんどいのだから高齢の母は、もっと台風の影響を受けているかもしれない。

私を庇って言いに来ないが、実は彼女もぐったりして寝込んでいるということもありえる。

そのシチュエーションから逃げているのだった。

本当に介護が必要になった時はこんなことはきっと日常茶飯事だろう。完璧にやろうとなんてしないで、できる範囲で労るしかないじゃないか。へなちょこなりに。

二日前、台風に備えてカップラーメンを買ってきてと姉に頼んだら、一つしか買ってこなかったと笑いながら言いにきた。

「まったくあの人は」

「今度散歩に出たら買ってこようか」

「そうねえ」

しっかり頼まれたわけでもなかったが、それが頭の隅に引っかかっていた。散歩どころじゃないので半分忘れたふりをし、もう半分、まあいっかと流していたが実はずっと気になっていた。

とりあえず荷物を置きに行きがてら様子を見てこよう。

母はテレビの前に座っていた。

綺麗なブルーのチェックで裾にレースのついたブラウスを着ている。

「あら、ありがと」

「どうですか、調子は」

低気圧にやられてませんかというこちらの意図は伝わらなかったようで不思議そうに、元気ですよと答えた。

「お姉さんが今日お休みで今、ジムに行ってるの。マチスのチケットが取れて今月末までだから午後からお姉さんと行って来るわ」

あ、マチス・・。

すげえ。やっぱすげえ。

「よかったね。あ、じゃあ帰りにカップラーメン、たんまり買い込んでくるといいよ」

「ああそうね」

嬉しそうだった。

やらなくちゃいけないことなんて何もないのに、勝手に課題のように頭に転がしていたものがパッと消えた。

よかったぁぁぁぁぁ。

家に戻り高校野球に夢中になっている夫に「ちょっと横になってくる」と二階に上がり、どかっとベッドに寝転ぶ。

心置きなく、寝転んだ。