遅くに起きてきた息子が自由が丘に行ってくると食後、また部屋に戻った。注文していたメガネを取りに行くそうだ。
と、思ったら急な雷雨。
ベッドでぐうたらしているドアがノックされ
「この雨だからやっぱりやめる」
ふふ。雷、嫌いだもんね。
「りょうかーい」
と、思ったらまたノック。
「なんだ、止んだな。行ってくるわ」
こんな雨が何度も来る不安定な予報だったから傘は持って行ったほうがいいと、寝転んだまま答え、またもやソリティア。
最近、どうしたことか、本が読めない。数行、数ページ読んで、おしまい。海外ドラマも1話観たらお腹いっぱい。テレビに至っては苦痛なこともある。
何にも面白くない。
具合が悪いわけでもないのに、のめり込むほど楽しいものがなくなってしまった。
暑さで散歩にも出られない。
かと言って窓を拭くでも風呂掃除をするでもなく、録音してある好きなラジオ番組を聴きながらひたすらソリティア。
今のマイブームはぐうたらぐうたらただ、過ごすこと。なんの生産性もなく、ただひたすらトドのようにねころがる。目的も向上心もない。
毎度毎度数分完了する同じようなゲームでも頭を使って完成すると小さな達成感がある。その小さなうしし、につられてもう一回、もう一回とシャッフルをしてまたすぐ連続ソリティア。
「ゲーマーだな」
息子が笑う。
夫は今日は家にいる。リビングで朝からずっとテレビの前にいる。いつも出歩いているから家にいてもやることがない。
真剣なんだと英検受けたりTOEIC受けに行ったりジタバタやってるくせに、英語の勉強なんかしやしない。
手当たり次第、再放送のドラマと映画をチャカチャカチャンネルを変えて観ているが、どれも途中からなのにどうしてあんなにすぐ夢中になって入り込めるのだろう。
「話の筋、わかるの」
「いや、あんまりよくわかってない」
私だったら人間関係や過去のエピソード、登場人物のキャラクターを把握したい。夫はその辺はどうでもいいらしい。今目の前で展開している映像からの情報だけで充分楽しめるのだ。
首を前に落として集中している。あの感性、私にもあった。小学校の頃、たまの留守番で夕方一人の時、テレビを見放題のわずか数時間、どの番組も途中からだろうがなんだろうが、わくわく面白かった。
時間の限り見尽くしてやろうとずっと見ていたなあ。
彼は今、ああ、この時間に英語の勉強しなくちゃと、チラリとも思っていない。瞬間、いつでもどこでもワクワクタイムにワープできる。ある意味、生きる天才だ。
ふと、朝から寝巻きのままでいることに気が付く。
夕方4時。今頃気がつく私も私だ。着替えろと言うと洗濯物が増えるしなあと、気がつかなかったことにしてまた二階に戻った。
7時過ぎ、息子が帰宅し三人で食卓についた。
糖質ゼロの缶ビールひと缶、つける。アルコールを飲むのは私だけ。飲んだ後からくるあのふわふわが好きだ。
外に出かけるために髭を剃り、髪を整え、外気に触れ、活気に満ちて帰ってきた息子が夫の姿に気がついた。
「なんだよ、一日中そのカッコしてたのかよ。だらしねえな」
「今日はね、いつもより寝坊したから」
嘘をつけ。と心の中で突っ込む。
「何言ってんだよ、昼からテレビ見てたじゃねえか。今日一日、家にいて何してたんだよ。家のこと、何かしたのかよ」
自分だって昼過ぎに起きて、雷がひどかったら一日似たようなものだったはずなのに、出てきたもんだから。これもまた心の中で呟く。
食後、ヨーグルトを食べていると息子が会社の夏祭りの余興でやった射的の景品の菓子を食べると棚を開けた。
お菓子を入れている缶をゴゾゴゾやりながら
「ああっ」。
「おめえ〜、俺のうまい棒、食ったろ」
「だってぇ、明太子味好きなんだもん」
「一日寝巻きのままテレビ見て、うまい棒食いやがって。自分で買った覚えがなけりゃ人のもんだろ、なんで勝手に食えるんだよ」
「だって父さん明太子味好きだから」
ほろ酔いの頭の上を通り過ぎてゆく。
食器は洗わない。机の上にまだある。
夫よ、洗ってもらうからな。
これもまた、平和な日曜の夜。