不公平

夕方4時、二階から夫が降りてくる。

台所をうろつき、小さな机の前でピタリと止まり、つくねバーグの照り焼きの皿をじっと見ている。

「これ、食べていい・・・って夜のか」

昨日の犯行はこの時間帯にこうして行われたのか。あれは私が戻ってくる直前まで部屋にいて食べていたのだ。だからエアコンは消えているのに冷んやり余韻が残っていたのだな。

この時間まで朝、食べたっきりなものだから自制心が効かない。少しだけのつもりがあとちょっとあとちょっとと、ついつい食べてしまったわけか。

ポテトチップの袋を半分だけ食べるつもりが、勢い止まらずええい、いってまえと平らげてしまうように。

「あなたのお昼は、こっち」

カウンターにある卵とキャベツの炒めたのを指差す。

それと味噌汁で遅い昼ごはんを食べながら

「今日、息子、夕飯、いらないんじゃなかったっけ」

「聞いてない」

「あ、そう?確か今日何かあるって言ってたような・・あれ、来週だったかな。僕に話してトンさんが聞いてないわけないもんね僕たけ聞いた情報かな、珍しいなぁ。」

いつもは自分だけ知らないことだらけなものだから鼻の穴を広げ得意げである。

「僕だけ知ってるなんてこと、ないよねぇ、勘違いだったかな、きっと勘違いだ」

そんなこと言ってたっけかなあ。

夕食時、二人でテーブルについた。

「息子、まだ?」

「いつもこの時間はまだ仕事だよ」

そのまま私はいつも通り9時半にベッドに入り、寝た。

お盆に息子の食事を乗せメモを置いた。

12時に目が覚めた。

二階から下を覗くと暗い。玄関の明かりだけがついている。

やっぱりまだ帰ってないんだ。何か同期会があるとか言ってたっけ。

ま、いっか。

そのまままた、部屋に戻った。

ウトウトしていた。

バンっと大きな音がしてドアが開く。

「母さん、ちょっといい」

息子だった。何事、どうした、何か事件か。

「どうした。おかえり」

「昼休み、会社の夏祭りで、カボチャ、もらっちゃったんだけど、丸ごと、冷蔵庫に入れとけばいいか」

・・・。あ。

「ああ、あれ今日だったか、夏祭り。じゃあ食べてきちゃったね」

「いや、食べてない。昼休みだったから。南瓜、会社の農場で作ったらしいのがビンゴの景品で当たってそのまま置いといたから、大丈夫かな、冷蔵庫入れていいか」

丸ごとならその辺に転がしといてくれてもいいが、この時期、虫が寄ってくるか・・明日考えよう。

「いいよ、野菜室に入れといて」

声も弱っていない。困っているのは南瓜のことだけのようだ。

安心安心。

「早く食べて寝るといいよ、お疲れさん」

「おう」

夫のいびきがゴーゴー聞こえる。

夕飯いるのかいらないのかわからない。

連絡もなく帰りがいつもより遅い。

どこにいるのか何をしているのか。

一人暮らししていたら全部見えないのだ。追うまい。

グッと腹を括って、無事を信じ、念じて待つ。

夜中に起こされ、南瓜がどうだこうだといきなり話しかけられたというのに、一番に思うのは「よかった。帰ってきた」「よかった、心も体も弱っていない、いつもと変わりない」ということ。

ゴー、ゴー。

夫のいびきが暗いへやに響く。

ふふふ。これが息子という生き物への愛か。

夫だったら、連絡くらいしろ、寝てるところを南瓜ごときで起こすなと手厳しく言うだろう。

ふふふふふ。

これが無償の愛ってやつか。

ふふふふふ。夫、気の毒。