夏のサンダルがずっと欲しいと思っていた。
この暑さの中、わざわざ靴屋に行くのが面倒でスニーカーを履く。しかし足元が暑苦しくて、サンダルがあったらなあと思っていた。
図書館の最寄りのバス停で降りたその目の前に、靴の流通センターがあった。
近所の人がふらりと立ち寄ってそれぞれ勝手に試し履きをしている。店員もいるにはいるが、いらっしゃいませと声をかけるが好きにさせている。その気楽さがよくて私も靴を脱ぐ。
片っ端からいいなと思うものを履いていく。踵が高すぎず、ベルトは太くしっかり、できることなら足裏のアーチにクッションがあたるもの。とにかく履き心地重視。
よくテレビで宣伝されているものがあった。見つけた。ここにあったか。これいい、買うならこれかなと思っていたのだ。
しかし実際に履いてみると、微妙に土踏まずにクッションが合わない。数ミリのズレだと思うが、その数ミリがかえって気になってしまう。
サイズを変えたり、ベルトの穴をずらしたりしたがやはりしっくりこない。平べったい私の足には向かないのだろう。
また他のを探す。
スポーツブランドが出しているビーチサンダルのようなものを履いてみた。アーチもなければヒールもない。
これが意外と楽だった。何より、足を覆っている部分がマジックテープのついた紐だけなので圧倒的に少ない。その上、無限にフィット感を調節できる。
店内を少し歩いてみた。
いいような気もするが、長く歩いていると疲れてくるような。
他にもいいのはないか、棚を探す。念の為素足で履ける運動靴も見た。
入り口そばの店内に陽が当たる。
やめよう。こんなところで熱中症になる。
今、足に履いてるのが楽だ、結局自分の靴が一番いいなんてサザエさんの漫画みたい。もう諦めて図書館に行こう。
そのまま店を出ようと数本歩く。足に外気が当たる。
あ。
さっきから店内をガンガン歩き回って楽だ楽だと思っていたのは試し履きをしていたサンダルだった。
みると遠くの方に脱ぎっぱなしの履き古した黒いスニーカーがちまっと置いてある。
サンダルを脱ぎ、靴下を履かずにスニーカーをつっかけレジに行く。
「お決まりですか」
「あの、これ、履いていきたいんですけど」
紙袋にスニーカーを突っ込み、タグを外してもらったサンダルに履き替えた。
今日は歯医者。これを履いていくため足の指にマニキュアを塗った。